1年前の北海道ブラックアウトから引き出す朝日と産経の教訓の違い
◆冬なら被害より甚大
大型化しやすい9月の台風は要注意と言われるが、この9日明け方に関東を直撃した台風15号は瞬間最大風速60㍍を超える記録的な暴風による被害をもたらした。特に大きな被害を受けた千葉県では、世界への空の玄関である成田空港への交通が遮断され、一時は陸の孤島に。また多くの地域で停電や断水し10日になっても復旧しないで住民生活がまひするなど大きな影響を及ぼした。停電は県内全域で約55万軒に広がったのである。
一方、この6日で発生から1年を迎えた北海道胆振(いぶり)東部地震(最大震度7)では、40人以上の死者と国内初の道全域停電(ブラックアウト)を約2日にわたって引き起こした。長時間の電力喪失は約550万人の道民の生活を脅かし、企業や酪農家などの生産活動に大きな支障を及ぼした。季節が夏でなく厳冬期に起きたとすれば、さらに甚大な被害となったに違いない。それだけに1年を機に、改めて「教訓をくみ取り、備えと支えを続けてい」(朝日・社説6日付)くことは欠かせない。
ブラックアウト1年で論調を掲げたのは朝日と産経(主張7日付)であるが、その説くところは極めて対照的である。
◆泊原発停止が背景に
ブラックアウトはなぜ起きたのか?
朝日は「発端は、北海道電力が電力供給の半分近くを頼っていた一つの大型発電所が止まった」ことに求める。その上に「本州とつながる送電網が細く、緊急受電もままならなかった」と言及。そのために「需給バランスが崩れ、機器の故障を防ぐために他の発電所が次々に停止」したのである。
一方の産経は「福島(原発)事故を機に北電の泊原子力発電所の3基が停止させられていたことがある」と、ブラックアウトが起きた背景にまで遡(さかのぼ)って説く。このため北電は「火力発電所のフル稼働で原発不在の穴埋めに努めていたが、道内最大の苫東(とまとう)厚真(あつま)火力発電所が大地震で故障した」。そのために道内の電力網を流れる電気が一気に消費量を満たせなくなった。電気はその時々に「消費量と発電量が一致していなければ、周波数が狂ってブラックアウトに進む」のを避けられないと説く。
改めて、国内初のブラックアウトがなぜ起きたのか?
その背景にまで言及した産経の解説の方が丁寧で具体的で分かりやすいことは一目瞭然であろう。
朝日は続けて「あり得ないはずのことが起きる。原発事故に学んだはずだ」と、まず原発活用の考えを打ち消す。その上で、北海道では「本州との間の送電網の増強が進み、需給バランスを保って大停電を避ける強制停電の対応も強化した」ことなどの対策が進むことを評価。送電網の弱さは「災害対応力を高める再生可能エネルギー導入の足かせでもあった」と、その整備を急ぐことを強調するのである。
◆安定供給重視の産経
これに対し産経は「自然まかせで出力調整能力を欠く太陽光や風力発電だけでは、安定した電力供給が不可能であることを多くの人が、この大地震で初めて知った」と主張。「強固な岩盤上に建つ原発は、火力発電所を上回る耐震性を備えている」ことから「安全審査中だった原発の泊3号機だけでも稼働していれば、昨年の北海道ブラックアウトは回避されていた可能性が極めて高い」と指摘する。
その上で「地震多発国の日本での電力安定供給には、原発が必要であることを再認識したい」「脱原発のリスクを顕在化させた北海道の地震だったが、その教訓は早くも風化しようとしている。来る南海トラフ地震での列島ブラックアウトが懸念される」と結ぶ。
同じブラックアウトの経験から引き出す教訓も、朝日と産経では際立った違いを示している。
(堀本和博)





