ネット情報に飛びつき政権批判を行う朝日論説室は「たこつぼ」か
◆新聞は「排除」報じず
「ヤジを飛ばした市民の排除を是認するかのような閣僚の発言は、警察の行き過ぎた実力行使を助長しかねない。到底見過ごすわけにはいかない」と朝日社説が息巻いている(8月29日付「文科相発言 異論排除を助長するな」)。
いったい何事が起こったのか。先月の埼玉県知事選最終日の24日、JR大宮駅前で応援演説に立った柴山昌彦文部科学相に対し、大学入試改革への反対を訴えた若い男性が警官によって現場から遠ざけられた。その画像がネット上に投稿され、「文科相に抗議の大学生を街頭演説から排除」などと批判された。
これに対し柴山氏は26日に自身のツイッターで「街宣車の反対でしたので見えていませんでした」「少なくともわめき散らす声は鮮明にその場にいた誰の耳にも届きました」などと投稿。これを27日の記者会見で問われ、「表現の自由は最大限保障されなければいけないが、(演説の場で)大声を出すことは権利として保障されているとは言えないのではないか」との見解を示した(毎日・朝日28日付)。
これが取り立てて問題にする話だろうか。選挙戦最終日の街頭演説だから取材記者が多数来ていたに違いないが、柴山氏同様、見えていなかったのか、「排除」を報じた新聞は皆無だった。つまり情報源はすべてネット上のものだ。それに便乗して朝日社説は「警察の行き過ぎた実力行使」「異論排除」を助長すると書き立て、ひとり炎上しているのである。
◆過剰警備の事実なし
事実はどうなのか。朝日9月3日付は埼玉県警の調査結果を社会面で報じている。それによると、男性は大声を上げたり、プラカードを掲げたりし、歩道と道路を隔てる生け垣を飛び越えようとしていたため、警察官3人が服を引っ張るなどして制止して数メートル離れた歩道側に誘導。「危ないので飛び出さないように」と数分間、口頭で注意した。制止したのは柴山氏の到着前というから、柴山氏が聞いた「わめき散らす声」は別の人物のものなのか。
県警警備課の江田浩之次席は朝日の取材に「道路上で立ち止まったり交通を妨害したりすれば、道交法違反にあたる可能性もある。警察官職務執行法には犯罪が行われようとするときにはその行為を制止できる旨を定めており、違法性はないと考えている」と話している。
この記事は社会面といっても第2社会面の下段、それも2段見出しの目立たない扱いだった。社説で大仰に「異論排除」などと拳を上げた手前、大きく報じるのは憚(はばか)られたか。
いずれにしても警察の調査では「行き過ぎた実力行使」は見られない。それでも朝日の論説陣(社説は論議して書いているそうだ)はネット情報にしがみ付くのか。そうなら反安倍のプロパガンダの助けになりさえすれば何でもあり、の批判は免れまい。
朝日社説が載った翌30日に手回しよく、柴山文科相への緊急抗議集会が文部科学省前で行われた。共産党機関紙「赤旗」が写真付きで報じている(電子版31日)。抗議を呼び掛けたのは市民有志でつくる「怒りの可視化」で、大学入試をめぐって意見を表明した学生を強制的に排除したと批判し、教員らが「現場で民主主義を教えている、教員の努力が無駄になります」と抗議したという。
◆「プロ市民」と“ぐる”
主催団体は「市民」といっても反安倍のデモや集会で名を売っている「プロ市民」(左翼イデオロギー集団)だった。こうしてみると、埼玉の学生もネット上のツイートもプロ市民と「ぐる」という構図が浮かんでくる。それに朝日は安易に飛び付いた。
この意識構造はどうなっているのか。精神科医の片田珠美氏は「ネットの世界では、自分と同じ価値観の情報に囲まれる『たこつぼ化』が起きやすい」と指摘している(産経7日付「偏西風」)。なるほど朝日論説室は「たこつぼ」なのである。
(増 記代司)