パレスチナ和平経済会合を「失敗する運命」と酷評するイスラエル紙
◆クシュナー氏が提案
クシュナー米大統領上級顧問が提案したパレスチナへの経済支援に関する国際会合への逆風が強まっている。
有力ユダヤロビー「米イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」のロビイストを務めたこともあるコラムニストのダグラス・ブルームフィールド氏は右派系イスラエル紙エルサレム・ポストへの寄稿で、この会合について「失敗する運命」と酷評した。
トランプ米大統領の娘婿で中東和平を担当してきたクシュナー氏は、6月25、26の両日にバーレーンでパレスチナ支援経済会合を開催し、中東和平案のうちの経済に関する部分について公表するとしている。会合は「平和から繁栄へ」と題され、米、バーレーン両国政府の共同声明によると、各国政府、企業家らが集まり「パレスチナの人々と地域のための発展的な未来への野心的で、達成可能なビジョンと枠組みについて話し合う」という。
パレスチナでの経済的な困難が、和平への障害となっている部分はあるだろう。パレスチナ自治政府が発足してから25年たつが、ヨルダン川西岸、ガザ地区は難民であふれ、自治政府は海外からの支援がなければ立ち行かないのが現状。ガザ地区はイスラム根本主義組織ハマスが実効支配し、経済は事実上崩壊している。
◆自治政府は参加拒否
パレスチナ解放機構(PLO)幹部のハナン・アシュラウィ氏は、「パレスチナ人の『幸福』は、私たちの土地で自由と主権を持って暮らす」ことにあり、「施しを受けて、捕らわれの身であることを受け入れる」ことではないと、経済先行の和平案を強く非難した。
ブルームフィールド氏は、会合は「失敗する運命にあり、分かった上でのことだろう」と指摘、「これには、米国の元外交官、学者、アラブ・イスラエル和平プロセスに関わってきた専門家らの考えも一致しているようだ」と主張した。パレスチナ自治政府は参加拒否を表明、主だったパレスチナ人実業家らも招待を拒否している。
ブルームフィールド氏によると、親イスラエル・ロビーに近い米シンクタンク、近東政策研究所の事務局長、ロバート・サトロフ氏が公開フォーラムの場でクシュナー氏に、同氏の和平案は「ルーズ(敗北)・ルーズ・ルーズ」案であり、「大失敗に直面するのを避けたければ、棚上げにすべきだ」と訴えたという。
今のところ米国の議会からもユダヤ団体からも会合への支持の声は出ていない。
ブルームフィールド氏は「トランプ氏は、もう一つ失敗が増えるのを議会とユダヤ人指導者らのせいにしようというのだろう。反イスラエル、反ユダヤの民主党員、リベラルなユダヤ人が、娘婿の素晴らしい和平案をぶち壊しにしたと非難するツイートが出てくるのを待とう」と容赦ない。
◆影落とす9月の選挙
米ブルームバーグ通信も「茶番でしかない」と否定的だ。「会合が実施されれば、パレスチナ人の国家への熱望が強固であることが分かるはずだ」と指摘、「その根底には、経済をエサに別のパレスチナ指導部をつくり出せるのではないかという幻想」があると、真っ向から否定している。
さらに、イスラエルでネタニヤフ首相の連立交渉がまとまらず、9月に改めて国会選挙が実施されることも、経済会合に影を落としている。右派政権が後退すれば、クシュナー氏の和平案が受け入れられる可能性は非常に小さくなるからだ。
ブルームバーグ通信は「パレスチナは参加せず、アラブは米国の歓心を買いたい、イスラエルは選挙を控え、重大事項に関与する正統性に欠ける」と関係国の打算が会合の根底にあると指摘する。
クシュナー氏は、会合への支持を得るため、各国を行脚しているが、今のところ支持の声は聞こえてこない。
(本田隆文)