サウジ記者殺害、事件の真相究明を止めるな
サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害をサウジ政府が認めた。国際社会からの信頼を失墜させたサウジとしては、早期の幕引きを図りたいところだろうが、真相の究明によって信頼回復に努め、人権や言論の自由を尊重する姿勢を示すべきだ。
皇太子の政治手法を批判
カショギ氏は、サウジの改革を進めるムハンマド皇太子を強く非難してきた。カショギ氏自身もサウジの近代化を求めており、皇太子への批判は、その独裁的な政治手法に向けられたものだった。
米誌ニューズウィークが死後に公開したインタビューでカショギ氏は、体制に反対しているわけではなく、「より良いサウジ」を望んでいるだけだと、サウジ社会の改革への支持を表明していた。皇太子については「旧態依然とした部族長」「自分だけに都合のいいサウジを目指している」と、その独善的な手法を非難している。
カショギ氏は昨年から米紙ワシントン・ポストに寄稿していたが、死後、同紙に託されたコラムが公表された。
カショギ氏はそこで、2018年「世界自由度ランキング」報告で「自由」に分類されているのが、アラブ世界では10年に中東の民主化運動「アラブの春」が始まったチュニジアだけで、サウジを含むほとんどのアラブ諸国が「自由がない」と分類されていることを嘆いている。また、アラブ世界は「権力を求める国内の勢力によって建てられた『鉄のカーテン』に直面している」と体制による情報統制に苦言を呈している。
サウジ政府は失踪から18日経(た)つ20日になって、ようやくカショギ氏の殺害を認め、自国民18人を拘束した。その中には皇太子に近い人物も複数いるとされている。
だが政府の報告では皇太子については触れられておらず、国際社会を納得させられるものではない。英国、ドイツ、フランス、欧州連合(EU)、国連などは報告が不十分として真相究明を求めた。
サウジ政府は殺害に関与したとされる情報機関の改編へ委員会を設置するとしている。しかし、その委員長が疑惑の渦中にある皇太子では公正な改編は望めない。カショギ氏はポスト紙のコラムで、アラブの春によって「明るい、自由なアラブ社会」の到来が期待されたものの、「期待はすぐに砕かれ、旧体制に戻るか、以前よりもさらに厳しい状況に直面」するようになったと、アラブ世界の現状を嘆いている。
サウジでは、体制を批判した知識人やジャーナリストらの拘束が相次いでいる。それは、皇太子の改革によってむしろ加速した。
改革への期待は高い
皇太子は、脱石油を柱とする経済改革とともに女性の社会進出促進など社会改革を進めてきた。改革への国際社会の期待は高い。
事件にはサウジだけでなく、各国の政治的、経済的思惑も絡んでいる。だが、サウジの改革を推進するにはカショギ氏殺害の真相を明らかにすることが不可欠だ。