化学兵器攻撃、シリアに使用を封じる代償を
シリアの首都ダマスカス近郊の東グータでの化学兵器攻撃について、国連安全保障理事会で独立調査機関を新設する米国の決議案、米国案を修正したロシアの決議案とも否決された。トランプ米政権はシリアへの武力行使を辞さない構えだが、化学兵器の使用は断固として封じなければならない。
露が安保理で拒否権発動
今回の化学兵器使用に対する制裁攻撃をめぐっては、フランス、サウジアラビアなどが米国と歩調を合わせる動きを見せている。一方、効果を疑う指摘もあるが、何もしなければ化学兵器使用を抑止できない。
東グータでアサド政権に抵抗を続けていた反体制派に対する同政権とロシア軍による空爆が7日から8日にかけてあり、反体制派メディアが、幼児を含む犠牲者が口から泡を吹いて倒れている多くの画像や動画を公開し、アサド政権による化学兵器使用を主張した。
また、負傷者を救援する「シリア民間防衛隊(ホワイト・ヘルメッツ)」も化学兵器が投下されたと主張。アサド政権を支援するロシアは「でっち上げ」と主張したが、トランプ政権はアサド政権による化学兵器使用の可能性が高いと分析している。トランプ大統領は化学兵器使用が確認されれば「強力な対応」をすると表明している。
これに対し、ロシアのプーチン大統領は「挑発と臆測は容認できない」とドイツのメルケル首相との電話会談で反発を示した。しかし、このように批判するのであれば安保理で真相を究明する独立調査機関の設置に拒否権を発動するのはおかしい。ロシアの決議案は調査報告書の公開前に安保理で調査内容を査定するもので、米国など7カ国が反対した。
独立調査を妨げようとするロシアの姿勢は明白だ。これまでシリアで化学兵器が使用されたのはアサド政権に反対する勢力の支配地域だけだ。トランプ大統領はツイッターで、ロシアに対し「自国民を殺して楽しむガス毒殺獣のパートナーになるべきではない」と批判し、冷戦時代を含めかつてなく米露関係は悪くなっていると嘆いた。
決して大袈裟(おおげさ)な表現ではないだろう。アサド政権は化学兵器使用を繰り返しており、昨年4月にも反体制派支配地域のイドリブ県で化学兵器を使った。トランプ政権は猛毒神経ガスのサリンが使用されたと断定。オランダ・ハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)は現地サンプルの分析からサリンの使用を確認している。ただ、この時も安保理でシリア政府に調査への全面協力を求める米英仏などの決議案にロシアが拒否権を発動している。
外交努力を排除するな
国際法違反の化学兵器使用に国連が結束した対応が取れないのは由々しきことだ。トランプ政権は昨年4月6日にイドリブ県での化学兵器使用に対して巡航ミサイル59発でシリア空軍基地を制裁攻撃した。
一方で、アサド政権を追い詰めれば、過激派組織「イスラム国」(IS)のような、より危険な武装集団が台頭することが懸念される。外交努力を排除してはならない。