シリア停戦の崩壊に着目した「サンモニ」の批判は非人道兵器まで

◆国連で米露非難合戦

 シリア停戦合意が崩壊した。このテーマを先週日曜(9・25)のTBS「サンデーモーニング」は冒頭で触れていた。9月12日から停戦に入ったシリア北部の都市アレッポの公園で遊ぶ14日時点の子供たちの様子に続き、停戦1週間後の19日には負傷し病院に運ばれた子供が「クラスター爆弾」でやられたと証言する。世界の火薬庫・中東では、これまでも繰り返し繰り返し流血の惨禍(さんか)が続いている。

 特にシリア問題は、オバマ米大統領をして「アメリカは世界の警察官ではない」(2013年)と言わしめ、国外に出た難民数は480万人を超えており、死者は9月で30万人に達した。難民は欧州に押し寄せ、英国の欧州連合(EU)離脱の一因となるなど、欧米諸国をきりきり舞いにしている。

 米露合意は、停戦が1週間続いたら過激派組織「イスラム国」(IS)やヌスラ戦線(シリア征服戦線)の掃討で軍事協力するものだった。

 番組は9月9日、スイス・ジュネーブにおけるケリー米国務長官とラブロフ露外相が交わした停戦合意から、停戦崩壊までの動きを追った。米国主導の有志連合によるシリア政府軍への誤爆(17日)、これは誤爆でなく意図的と捉えるアサド・シリア大統領のコメント、19日の同政府軍による停戦終結宣言と攻撃再開、国連の支援物資運搬トラックへの空爆、この攻撃をしたのは「米国と反体制派」と主張するロシア側、「ロシアとシリア政府軍」と主張する米国側、その対立のまま21日の国連安保理で非難し合うラブロフ外相とケリー長官などだ。ジュネーブで脚光を浴び、12日後のニューヨークで罵声を浴びせ合う姿は嘆かわしいが状況の厳しさを示している。

◆「IS掃討」は標語化

 同番組は日頃、安保問題で米国批判が多いが、17日の米軍主導の有志連合による誤爆に特に言及はなかった。さすがにアサド政権の肩を持つわけにはいかないからだろう。番組の落とし所は巻き添えの犠牲の多さであり、自国民に使用した非人道兵器への批判だからだ。中央大学教授の目加田説子氏が「たる爆弾、化学兵器、クラスター爆弾」などを説明した。

 停戦つぶしの引き金となった17日の誤爆は疑問が残る。米国防総省のクック報道官は誤爆した場所をIS拠点と認識していたといい、空爆計画はロシア側にも伝えたと言明した。誰が「IS拠点」と情報をたれ込んだのか。真相は闇の中で謀略めいてもいる。国連トラックへの空爆も米露の言い分は正反対だ。

 番組は、停戦中の戦闘発生について、「テロリストなのかテロリストじゃないのか峻別(しゅんべつ)できない」組織がたくさんあるとの東京外語大学・青山弘之教授の談話を受け、「反体制派を支援する米国と反体制派をテロリストとして攻撃するロシア、両者の溝は埋まらない」と説明した。

 ただ、もはや「IS掃討」は標語化し、ロシアが支援するアサド政権の失地回復の軍事行動に反体制派を支援する米国は劣勢を挽回できないのが実際のところではないのか。2月の停戦合意もロシア・アサド政権側に有利な形で進み、4月のアレッポ空爆で合意は崩壊し、政府軍のアレッポ包囲が進む中で9月にまた停戦が合意され、崩壊した。対テロを目的とした外交解決が極めて難しくなっている。

◆手順間違え秩序破壊

 2010年、チュニジアでジャスミン革命が起こり、わが国や欧米諸国は民主化と歓迎した。この“アラブの春”がエジプト、シリアに波及してアサド政権転覆を期待する世論もあった。確かに民主主義の価値観は尊い。しかし、手順を間違えば秩序破壊を招く。その代償はあまりにも恐ろしい。シリアにはイラク戦争で逃亡兵と武器が流入し、ロシア軍基地もあった。

 番組で外交評論家の岡本行夫氏は、「シリアは今の大統領のお父さんのハーフェズ・アサド大統領の時は平和ないい国だった。それが今こんなに荒廃して悲しい」と述べ、レバノン内戦終結が15年かかったように各派が疲弊しないと戦闘をやめようとしないのではないかと観測した。

 「いい国だった」アサド前大統領のバース党のシリアは、ソ連に学ぶ社会主義の世俗主義国家で、今の米露対立にもつながる。が、歴史的な部族抗争や宗派争いの巣窟で民主化運動に“春”を説けば血の花が咲く。国際社会はおびただしい難民で身をもって体験している。

(窪田伸雄)