首相の所信表明演説/与野党に幅広い合意形成への努力求めた読売
◆並々ならぬ覚悟示す
「『この道を、力強く、前へ』 これが、選挙で示された国民の意思であります。安定的な政治基盤の上に、しっかりと結果を出していく。国民の負託に応えていく決意であります」
安倍晋三首相は第192臨時国会(会期は11月30日までの66日間)が召集された26日に、衆参両院の本会議で所信表明演説を行った。7月の参院選で、改憲の国会発議に必要な3分の2の議席を衆参両院で確保したことで、首相は長期政権への自信を背景に冒頭のように国会に臨む並々ならぬ覚悟を示した。
首相の演説は計18回も盛り込んだ「未来」をキーワードに、憲法改正の発議に向け、憲法を決めるのは「政府でなく国民」とした上で、国民に改憲案を提示するのは国会の責任だとして「与野党の立場を超え、憲法審査会で議論を深め」るよう呼び掛けた。天皇陛下のお気持ち表明では、生前退位をめぐる有識者会議を設置して議論を深化させることを表明。また、引き続き経済最優先で政権運営に取り組み、デフレ脱出速度を「最大限まで引き上げる」ことを強調した。
政権が重要課題に掲げる「1憶総活躍」の実現に向けては、長時間労働の是正や「同一労働同一賃金」実現など「働き方改革」を加速する方針を示した。さらに、地方創生、農政新時代、地球儀を俯瞰(ふかん)する外交などに言及し、「安倍内閣は『未来』への挑戦を続け」「世界の真ん中で輝く、日本の『未来』を、皆さん、共に切り拓いて」いこうと呼び掛けたのである。
◆日経らしさ出た社説
安倍首相の施政方針演説について各紙は翌27日付で一斉に社論を掲げた。リオ五輪の「最後の一瞬まで勝利を諦めない選手たちの姿」への感動を共にし、開口一番、4年後の東京五輪を「世界一の大会に」し「何としても成功させ」て世界一「暮らしやすい」「信頼される国を目指し、新たなるスタートを切る時」と切り出した演説は、前記のように多岐にわたる課題の克服を語ったが、最大の焦点は憲法改正発議についてである。
ところが日経は、このテーマには全く触れない異色の社説を掲げた。所信表明については「20年の東京五輪を念頭に、将来に向かって共に歩もうという演説は、けっこう訴えかけるものがあるだろう」「政策課題をホチキスで止めた演説にならないよう苦心の跡がうかがえる」と評価。その上で、「未来」のキーワードをちりばめながら語っていない中期的な国家ビジョンの必要に特化して注文を付けたのである。
「そのとき『痛み』なしにこの国の未来があるとはとても思えない。不人気であっても、つらくても有権者に訴えていくしかない」「演説への共感は負担や不利益を率直に語ることにもあるのを我々は知っている」と抽象的に指摘したが、消費税10%への引き上げ延期を暗に批判していることは言うまでもない。その当否は別にして、いかにも日経らしい色を出した社論と言えよう。
さて憲法改正論議では、朝日は相変わらず読むまでもなく、野党第1党の民進党後押しにもっぱら腐心している。「与野党が建設的な議論をへて結論を出す。それがのぞましい国会の姿」だと認めながら、「安倍政権が繰り返してきたやり方は『建設的な議論』とはほど遠い」とこれまでの国会審議混乱の責任を一方的に与党に押し付けるだけの論調の繰り返しでは、頭の痛い部数減に歯止めがかかるはずもなかろう。毎日も、議論を前に進めるには「問題の多い自民党改憲草案をまずは撤回すべきだ」と、民進党の主張のオウム返しでは色褪せた印象を拭えない。
◆改憲で朝と対極の産
産経は、参院選勝利でより強固になった政権基盤の上で「指導者にはその力を改革の遂行に向けることが求められる」とし、首相に「内外の危機を克服する具体的な筋道を国民に示」すことでは「極めて物足りない」と注文。憲法改正では「国民を守り抜く上で、9条が自衛権を制約している問題をどうするかを語るべきだ」と迫り、朝日とは対極にある主張を展開した。
この問題では、与野党に幅広い合意形成への努力を求めた上で読売は、自民党に「与野党の一致点を見いだすための柔軟な姿勢」を求めた。朝日に比べバランスの取れた視点と言えよう。小紙は民進党に「政権奪回を目指す国民政党」としての姿勢を求め、万年野党的な態度をいさめたのである。
(堀本和博)