豊洲新市場の地下空間問題で過熱する報道・世論に水を掛ける新潮

◆制御不能の大騒ぎに

 豊洲新市場で基準値を超えるベンゼンとヒ素が検出されたことで、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっている。移転に反対する業者は、「東京都はわれわれにベンゼンなどで汚染された魚を提供させようとしているのか」と叫ぶ。まるで「豊洲」がチェルノブイリのように立ち入ることもできないほどに汚染されているかのようだ。

 「豊洲」をめぐる報道と視聴者・読者の反応は今や制御不能になっていると言っていい。「地下空間」は絶対に“悪”なのか?「基準値超えベンゼン」は絶対に危険なのか? 今、科学的なデータを示したところで、“汚染”された世論を中和させるのは難しそうだ。

 そういう時こそ、週刊誌の出番だ。高みから斜に構えて地上にいては気付かない視点や意見を提供する。週刊新潮が2週にわたって「『豊洲のパンドラ』20の疑問」(9月29日号)と「10の疑問」(10月6日号)を特集した。同誌らしい取り組みだ。

 1週目の特集で、そもそもどうして豊洲の地下空間が“暴露”されたのかの経緯に触れている。共産党に匿名情報がもたらされ、同党都議が都の担当課長に聞くと、「その通りです。ご覧になりますか」とあっさり案内したというのだ。担当課長は地下空間が別に悪いものとは思っていない様子が伝わってくる。9月7日に市場の地下に入った。「『豊洲のパンドラ』の箱が開いた瞬間だった」と同誌はいう。そして、地下空間も水も“悪者”にされていった。

◆より衛生的で頑丈に

 地下空間が“悪”なら盛り土は絶対に“善”なのか。これに対して「京大大学院工学研究科教授の藤井聡氏」は、「盛り土の上に直接建物を作る場合と、コンクリートの『地下ピット』を作った今回の場合。両者を比較すると後者の方が衛生的かつ安全」と断言する。

 盛り土の上に建物を建てると、「地下水は市場施設の床に直接届き、建物内に浸入するリスクが生じます。(略)地下ピットを設けてある場合は、これによって市場施設として使われる建物の地上階と地下水とを遮断することができる」という説明だ。

 さらに、「東北大学名誉教授の三浦尚氏」は、「盛り土をせずに地下空間を設けたことで、基礎、つまりは本来の地盤に近い深い部分まで構造物が作られたことに」なり、構造的にも丈夫になるということだ。

 地下にたまっていた水が強いアルカリ性だったことについても、「温泉学者の松田忠徳氏」は、「テレビで盛んに宣伝されている『財宝温泉水』はPH9。本当にアルカリ水が危険で健康被害を引き起こすものなら、誰も買って飲んだりしないでしょ」と一笑に付す。

◆低い発がんリスク

 同誌は1回目の特集でベンゼンは「環境基準値を超えることはなかった」と書いたが、都は29日、「基準値を超えていた」と発表した。水1㍑当たり0・01㍉㌘が基準値のところ0・019㍉㌘とわずかに超過していた。

 「京都大大学院の米田稔教授」によれば、「ベンゼンは線香の煙や排ガスなど、身の回りに存在しています。ただ、環境基準程度のベンゼンを含む空気を毎日吸い続けても増える発がん確率は、0・001%。対して、副流煙が流れる場所で生活しているときの肺の発がん確率は、約1%に跳ね上がります」という。「ごく単純に言えば、煙草の発がんリスクはベンゼンに比べ、1000倍も高いというわけだ」と説明する。

 ヒ素でも都の発表では0・011㍉㌘、0・014㍉㌘の数値だった。基準値は0・01㍉㌘。「海水1㍑中の平均的ヒ素濃度は0・002~0・003㍉㌘」であることを考えるとこれが極端に多いのかどうか。まして、地下空間があることによって、「地下階と地下水とを遮断」できるはずだ。

 「主婦たちの頭には、豊洲の鮮魚=汚染魚のイメージがすでに刷り込まれてい」る。(10月6日号)。「メディアが科学的根拠のない危険キャンペーンを行ったのですから、風評が落ち着くのを待つしかありません」(同)と「森永卓郎氏」は同誌に語る。

 だから、週刊誌は今後もヒートアップした頭に水を掛け続けてほしい。でないと後になって「あれは何だったのか」という虚しい問いと巨額な修復・移転費用だけが残ることになる。

(岩崎 哲)