関係改善進めるイスラエルとアラブ諸国、パレスチナは置き去りか

◆敵視政策は棚上げに

 イスラエルとパレスチナ間の和平交渉は止まったまま、進展の気配は見えない。その一方で、イスラエルとアラブ諸国の接近が伝えられている。

 最後の中東戦争が起きて既に40年以上、アラブ世界からの中東和平への関心は薄れているように見える。1948年の第1次中東戦争以来、パレスチナをめぐりイスラエルとアラブ諸国は対立してきた。「中東和平」と呼ばれてきたように、パレスチナ和平はこれまで、周辺国をも含む中東の問題と捉えられてきたが、イランの台頭などを受けて新たな地政学的時代を迎えようとしているようだ。

 イスラエルの右派ネタニヤフ政権は、パレスチナとの和平の推進には関心がないようだが、周辺諸国との関係改善には積極的だ。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は8月27日付社説「湾岸の君主国と関係深めるイスラエル」で、「ネタニヤフ首相はまず、アラブ諸国との関係改善を進める意向であることを明らかにしており、そうしておけば、パレスチナとの和平を有利に進めることができると語っている」と、イスラエルがこのところサウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国への接近に積極的であることを指摘した。

 しかし、周辺アラブ諸国との関係改善がパレスチナ和平の推進につながるという保証はどこにもない。それどころか、「これらの国々が関係改善に価値を見いだせば、そこでとどまり、何十年にもわたってこの地域の緊張の源であったパレスチナの苦難は続くことになる」とパレスチナ和平への関心が失われることに警戒感を示している。

 一つの契機となったのは、7月のサウジ代表団のエルサレム訪問だ。代表のアンワル・エシュキ退役少将は、イスラエルの外務省高官と会見したが、サウジもこの事実を認めている。両者の接触は2年前の秘密接触から始まったことが報じられており、かつてのイスラエル敵視政策は棚上げになった格好だ。

◆背景にイランの存在

 その背景には、ペルシャ湾対岸の大国イランの存在がある。イスラム教シーア派が多数派のイランは、スンニ派が支配するペルシャ湾岸のアラブ諸国とは長年対立関係にある。核開発疑惑を受けて国際社会から経済制裁を科されるなど、抑圧されてきたイランだが、昨年の核合意を経て、制裁が緩和され、孤立から脱却の途上にある。これが、地域でのイランの存在感を強める結果となり、ロシアへの接近も伝えられる。ホルムズ海峡などで米軍の艦艇や航空機に対して異常接近を繰り返すなど、強気の姿勢だ。

 そのためアラブ諸国としては、イランへの対抗という事情から、イスラエルとの接近を図っている。

 エジプトの英語週刊紙アルアハラムウィークリー電子版も1日付の社説で、湾岸アラブ諸国のイスラエル接近で、パレスチナ問題が置き去りにされるのではないかと警戒感をあらわにしている。

 イスラエルと最初に国交を樹立したアラブ国家であり、パレスチナ自治区ガザ地区と国境を接するエジプトにとって、パレスチナ問題は重大だ。

 「パレスチナ問題が解決されない限り、この問題はエジプトの安全保障の脅威であり続ける」と指摘する一方で、「イスラエルとの関係は、この問題を解決へと導く一つの道だ」とイスラエルとの良好な関係を維持することの重要性を強調している。

◆新時代の到来を予測

 同紙は「アラブ諸国間の一定の協力が必要」であり、パレスチナ問題解決へ「真剣に、力を合わせて責務を果たす」べきだと訴える。国益を優先してイスラエルに接近し、パレスチナ問題を置き去りにすることは許さないと言いたげだが、イラン、シリアなど周辺地域の情勢は大きく様変わりしており、各国の対応の変化は不可避だろう。

 米ジャーナリストのサミュエル・ラマニ氏はネット誌ハフィントン・ポストで、ペルシャ湾岸のアラブ6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)とイスラエルとの経済、安全保障での関係強化は「GCCのパレスチナへの関心が薄れていること、中東でのイランの影響力をそぎたいというサウジの強い願望と関係がある」と指摘。さらに、「イスラエル・GCC反イラン枢軸が、中東の地政学の永続的な特徴となろうとしている」と中東新時代の到来を予測している。

(本田隆文)