カープ優勝をスポーツの人と地域をつなげる力から論じた朝、毎、産
◆社論の切り口は様々
プロ野球の広島東洋カープがこの10日に、実に四半世紀ぶり7度目のセ・リーグ優勝を決めた。優勝へのマジックナンバーを「1」として東京ドームに乗り込んだ2位巨人との直接対決で、今季を象徴するように白星の半分以上となる42度目の逆転勝ち(6-4)。就任2年目の緒方孝市監督は、6月5日から首位に立ったチームをそのまま独走させ、2リーグ制後では1990年の巨人に次ぐ早さで優勝決定へと導いたのである。
広島カープの優勝については、これをテーマとした読売の社論を読みたいなとほのかに期待していたが、残念ながらかなわなかった。別に皮肉るわけではない。
カープのリーグ制覇は、1979年・80年に名将・古葉竹識監督の下、山本浩、衣笠、江夏らの活躍で連続日本一に輝き「赤ヘル軍団」旋風を巻き起こしたチームが、91年のリーグ制覇の後は長く低迷。12球団で最も優勝から遠ざかっていたチームの優勝であること。大黒柱の前田健太投手(昨年15勝)が米ドジャースに移籍で抜け、今季の前評判はさほど高くなかったこと。強打者はいなくとも打率、出塁率、得点、盗塁、本塁打などのチーム成績がリーグトップなどの成績面からの分析。
大金を必要とするフリーエージェント(FA)で選手を取らないし、FA宣言した選手を理解し無用な引き留めをせずに送り出す。選手は自前で育てていく。強力な企業スポンサーに支えられる球団がほとんどのプロ野球で、カープはサッカーのJリーグチームに似た一面がある。市民球団として誕生し、経営難の時には地域や市民の「たる募金」寄付などにも支えられてきた地域との強い結び付きなど、独自のチーム運営スタイルを貫いてきたことの総括など。興味深い社論の切り口はいろいろとあると思うからだ。
◆地域活性化を論じる
カープの優勝を社論に掲載したのは毎日(11日社説「ファンと走ったVじゃけえ」)、朝日(13日社説「ファンと一体の大切さ」)、産経(13日主張「地域の理想的快挙を見た」)の3紙である。
カープの優勝を「地方都市のチームが、努力と工夫で獲得したファンとともにたどりついた栄冠」だと称賛する朝日は、毎日と共に安倍晋三内閣が担当大臣まで作って推進する地方創生の視点から論じた。その努力と工夫を両紙は、09年に誕生した新本拠地マツダスタジアムに見て、臨場感あふれる「砂かぶり席」や寝そべり観戦ができる「寝ソべリア」、バーベキューができるスペースなど、米大リーグの球場を参考にした仕様について言及した。「野球に縁遠かった人たちも楽しめるように――。観客は増え、関連グッズも売れて球団の経営を押し上げた」(朝日)、「孫から祖父母まで楽しめる『3世代』を念頭に置いた球場運営を目指し、野球に興味の無い人も楽しめるような工夫」が「右肩上がりの観客増につながった」(毎日)と高く評価。朝日はさらに、広島の挑戦が東北楽天ゴールデンイーグルスや横浜DeNA、北海道日本ハムファイターズの球団運営に影響を与えていると言うのである。
また、自前の若手選手育成の方針で一貫してきたことでも両紙は「東京一極集中が進む中、地方で頑張っている姿は広島ファン以外の共感を呼んでいる」「スポーツには人々の気持ちを沸き立たせる効果があり、地域経済をも活性化させる」(毎日)、「さほど有名でもなく、野球選手としては年俸も高くない選手のあきらめないプレーに、若者や女性ファンが自らの生き方を重ねたという。スタジアムにかけつけたファンの声援が選手を育てた」「プロスポーツを活性化する基本は何か、広島の優勝が改めて教えている」(朝日)とその意義を説く。異議なしである。
◆熱い情理から説く産
カープの優勝を産経は、歓喜の輪の中の熱い情理から説く。地域に根付くチームを「快進撃に、ホームのマツダスタジアムはもちろん、各球場を『カープ女子』らが赤く染めた。地域やファンとの一体感は、国内随一の成功例だろう」と称える。その根底に「黒田は大リーグの高年俸提示を袖にして古巣に復帰した。球団やファンが作るチームの空気に、『どうしても帰りたくなる』魅力があるのだろう」とした上で「資金力が豊富な球団の優勝とは違った意味」を示す。「スポーツには人と人、人と地域を強くつなげる力がある。地域社会が進む道しるべとしても」参考にすべきだと言うのである。
(堀本和博)