「アフリカ開発会議」とナイロビ宣言に対する各紙の着眼点に特色
◆影響力強める欧米中
基調講演で安倍晋三首相が表明したのは、3年間で官民総額3兆円規模の投資をするほか、約1000万人の技術者らを育成する人づくりに取り組む方針であった。
初めてアフリカ開催となり、日本主導でアフリカ開発の支援などを議論する第6回「アフリカ開発会議(TICAD)」が8月27、28日の両日、ケニアの首都ナイロビで開かれ、今後のアフリカ支援の指針となる「ナイロビ宣言」を採択して閉幕した。安倍首相が「アフリカは21世紀最大のフロンティアだ。日本は、官民あげて支援する」(28日の共同記者会見)と語ったように、宣言はアフリカを「世界経済の中の重要なプレーヤー」と位置付けた。その上で、アフリカの成長の後押しに、資源獲得や軍拠点狙いで巨額の投資を進め影響力を強める中国とは一味違う、雇用創出や技術移転につながる「質の高いインフラ」投資を進めていくことをうたっているのである。
宣言では①経済の多角化と産業化を通じた構造改革の促進②感染症対策を含む強靭(きょうじん)で持続可能な保健システム改革③繁栄の共有のための社会安定化促進とテロ対策能力の強化――を3本柱に据え、日本とアフリカ各国が連携することを盛り込んだ。
また海洋安全保障の分野では、国連海洋法条約に触れた上で「国際法のルールを基礎とした海洋秩序を維持することの重要性を強調する」と明記している。
1993年にスタートしたTICADは、アフリカの途上国に対する援助が議題の中心であった。それが近年は豊富な天然資源の獲得と高い経済成長の可能性に注目した欧米や中国などが、投資などビジネスパートナーとしての関係強化に乗り出し、影響力を強めていた。日本はそうした流れにやや出遅れて、アフリカでの影も薄くなり掛かっていたのである。
◆日本の“本気”に関心
そこで、巻き返しに出た第一歩が今回のTICADである。これまで日本で5年ごとに開催されてきたのを、日本とアフリカで3年ごと交互に開催とした。そして、安倍首相は28日のTICAD全体会合で、参加したアフリカ各国首脳を前に、その意気込みを「今回は、経団連会長をはじめ、70にも及ぶ日本の経済界のリーダーがやってきた。アフリカと共に成長したいという日本企業トップの熱意の表れだ」と強調したのだ。
さらに、安倍首相は今回のナイロビ滞在中に会合や行事の合間を縫って、ケニアのケニヤッタ大統領やナイジェリアのブハリ大統領をはじめ12カ国の首脳と精力的に個別会談をこなしている。折りから巨額だが自国人労働者の投入で現地人雇用には貢献しない投資のあり方などに批判が出るなど、中国のアフリカ戦略にほころびが見え隠れし始めた時である。それだけに、日本の本気にアフリカ側も高い関心を示したことを毎日(28日付)が次のように伝えている。
「アフリカ連合(AU)議長国チャドのデビ大統領も『結果を出せる日本にふさわしい投資でアフリカの繁栄が実現する』と日本の関与拡大に強い期待感を表明した」
「大量の労働者を中国から送り込み、安価な製品で地元企業から市場を奪う。汚職もひどい――。市民の間では中国との関係に不満もあり『この国が次の段階に進むには日本の協力や助言も必要だ』(ケニアの日刊紙「ピープル・デーリー」の編集幹部ケン・ボシレ氏(50)」。
◆安保面から評価の産
今回のTICADについて、各紙の目の付けどころはそれぞれの特色を示していた。読売(社説・30日付)は「ナイロビ宣言が、資源輸出だけに頼らない『経済の多角化』を掲げたのは妥当だ」と宣言を支持。26日と30日付と2回も取り上げた産経(主張)はナイロビ宣言が、海洋秩序の維持で「国際法の原則」を強調したことを「さまざまな国際会議で、中国による力づくの海洋進出の不当性を訴えて『国際問題化』を図り、各国に警鐘を鳴らすべきだ。/アフリカ諸国との連携を、経済協力に加えて安全保障へと広げる成果を得た意味は大きい」(30日付)と海洋安保面からの評価を強調した。
朝日(社説・26日付)は「巨額資本を投じた大事業でなくとも、小粒でも息の長い関与の積み重ねが発展の基盤を強固にするはずだ」と、得意分野を生かした中小企業がアフリカ開発のカギになることを指摘。「技術協力や人材育成で日本にしかできない貢献を探りたい。アジアの経済発展に寄与してきた経験も生かせるはず」とした毎日(同・28日付)は、経済面からの後押しを強調したのである。
(堀本和博)





