問題発言の多い右派国防相任命で強い批判を浴びるネタニヤフ首相

◆右傾化に警鐘鳴らす

 イスラエルのネタニヤフ首相が右派政党「わが家イスラエル」のリーバーマン党首を国防相に任命したことが、内外で反発を呼んでいる。

 リーバーマン氏は外相を務めたこともあるベテラン政治家だが、過激な発言でも知られる。パレスチナ人を占領地ヨルダン川西岸から追放することを要求したこともあり、最近では、イスラエル人を攻撃したパレスチナ人に対して死刑を科すことを主張し、反発を呼んだ。国際社会が求めるイスラエルとパレスチナの「2国家共存」案にも反対の立場だ。

 右派リクードを中核とする現政権は右派政党、宗教政党から成るが、国会の定数120議席のうち61議席にとどまり、政権基盤は不安定だ。突然のリーバーマン氏の国防相任命は、政権基盤の強化のためだが、国際社会の反発を呼ぶことは想像がつく上、パレスチナ自治政府との関係にも水を差すのは間違いない。その上、パレスチナとの和平交渉は2014年4月に中断されたままで、再開のめどは立っていない。

 米紙ニューヨーク・タイムズ紙は5月24日付社説で、「ネタニヤフ首相は、イスラエルとパレスチナを共存させ、両者間の紛争を解決するための2国家共存案は事実上死んだと思っているのかもしれない」とネタニヤフ政権の右傾化に警鐘を鳴らした。

 米政府は、パレスチナ和平の実現のために、パレスチナ自治政府を独立国家とし、イスラエルと共存させることを求めてきた。だが、それを否定し、入植地の拡大までも主張してきた右派国防相の任命は、2国家共存による和平実現を放棄したと取られても仕方のないことだろう。

◆懸念を示すWポスト

 同紙は、「ネタニヤフ氏にとっては、不安定な連立を安定化させることの方が、米国との関係をさらに悪化させるリスクよりも大切なようだ」と、外交、パレスチナ和平よりも、政権の存続を優先していると非難した。

 オバマ大統領は、ヨルダン川西岸の入植活動の停止を求めるなどしたことから、ネタニヤフ首相との関係は悪化、昨年のイランとの核合意で両国関係はさらに悪化した。

 同紙は、ネタニヤフ首相が「次期大統領から、自国防衛に有利な合意が得られるかもしれないと考えているのだろうか」というが、そもそもネタニヤフ首相自身が、2カ国共存に積極的に取り組もうという姿勢を見せたことはあまりなく、米大統領が代わっても、パレスチナをめぐる両国間のギクシャクした関係に大きな変化はないだろう。ただ、任期残り8カ月のオバマ大統領は、年内に2国家共存の条件などを定める国連決議を支持するかどうかを検討しているという。政権のレガシーとして中東和平を推進したいという思惑だろう。

 その手始めが、フランスが提唱した中東和平国際会議だ。両当事者は参加しないが、外部からの干渉を嫌うネタニヤフ政権は、この提案に反発、パレスチナ自治政府は歓迎の意向を表明している。

 米紙ワシントン・ポスト紙もやはり1日付社説「ネタニヤフ氏の右急転回」で、リーバーマン氏の国防相就任に懸念を表明した。リーバーマン氏は軍内からも評判がよくないことが伝えられ、5月下旬に辞任したヤアロン前国防相はリーバーマン氏の国防相任命を受けて「急進派と危険な勢力がイスラエルを乗っ取った」と強い危機感を表明していた。

 想定していたとはいえ、内外からの強い反発を受けてネタニヤフ首相、リーバーマン氏は、外交へのダメージを緩和させるためか、パレスチナ国家への支持を表明した。また、2002年にサウジアラビアが提唱した「アラブ平和構想」へ関心を示した。これは、パレスチナとの包括的和平の実現と引き換えに、アラブ諸国がイスラエルと外交関係を樹立するというもの。

 ポスト紙はこのような柔軟姿勢に対して「このようなレトリックは、行動が伴わなければ、国際的圧力を減じることはないだろう」と冷めた見方を示した。

◆総じて批判的な各紙

 同紙は「平和プロセスの『国際化』を阻止するためには、将来のパレスチナ国家実現を妨害するより、支援すべきだろう」と新内閣下でのパレスチナ問題の進展には悲観的だ。

 リーバーマン氏の国防相抜擢(ばってき)には各紙、総じて批判的。政治手法に長(た)け、強権を発揮してきたネタニヤフ首相だが、内外に新たな敵を作ったという感は否めない。

(本田隆文)