生き残り策に産官学連携の指摘が必要だったアエラ「大学の底力」特集

◆看板学部の強さ取材

 2017年春卒業予定の大学生らを対象にした、主要企業の面接や筆記試験などの「選考活動」が1日から始まった。

 そんな中、古くて新しい話題だが、アエラ6月6日号は大学、学部の可能性を探る大特集がメーン。その第1部は「大学の底力 最強学部のサバイバル」と題し、個々の分野で今もトップの座を走る早稲田の政経学部、慶應の医学部、中央の法学部、日大の芸術学部、同志社の神学部の強さの源をリポートしている。

 それぞれ早稲田…「自由放任が学生を生かす」、慶應…「ジャングル(註・アマゾン川流域の医学研究会に便乗するなど活発な課外活動)で医療を考える」、中央…「『労惜しまず』の学風で復活」、日大…「異なる才能が出会う場所」、同志社…「紛争を解決に導ける人材を」というもの。いわゆる伝統の強さが今に生きていて、卒業生たちに有名人が多く、それが権威となって学生たちにプライドを持たせている。これまでよく言われたことで、新奇な点は特になし。

◆山梨大はワイン学科

 これに対し2部の「変化を捉えて続々誕生 『未来の看板学部』狙う12の学部・研究室」は、閉鎖される大学、学部がある中、新設学部の幾つかを拾い上げおもしろい。その中で「農学系の隆盛」について「バイオ、食品、料理、栄養などさまざまなアプローチをする学部が生まれ、女子学生も増え始めている。さらに『地域』というキーワードが加わる学部や学科の存在感は、すでに看板の資格十分だ」という。

 「農学系の隆盛 地域産業と結びつきワインや和食を世界へ」は、山梨大学の地域食物科学科ワイン科学特別コースを取り上げている。

 同コースは「6人だった定員を2016年4月入学から13人に増やした。ブドウ栽培から製造過程まで、ワインづくりを包括的に学ぶ。日本で唯一のワイン専門コース」。大学を地場産業と結びつけるのも狙いの一つで「県内に約80軒あるワイナリーの協力を得て畑でデータを集めたり、セミナーを実施したり、地元のワイン産業とはかかわりが深い。近年、盛んになっているワイナリー巡りなど、観光の視点も不可欠だ」としている。

 また徳島大学は、生物資源産業学部を始動させた。「地元経済に貢献できる人材を育てること、生産、加工、流通、販売までの全てを網羅する新しい産業を目指して新設された」という。龍谷大学は農学部を新たに開設、「和食の本質に迫ろうと大学本部のある京都の老舗料亭と協力。国境を越えて、日本料理の発展について検証する研究」も始まっている。これらの農学関連学部の健闘を願いたい。

 ただ問題は地域の企業が彼ら新卒者を積極的に雇用する意志があるかどうか。従来、企業の必要とする人材と、学生たちの学びの成果は必ずしも連結せず、両者の思惑は一致していなかった。

 米国では、大学が地域の産業に役立つ研究を行い、産学共同研究が比較的たやすく進んだ。その背景には、米国の大学のルーツが職業的、実践的な研究と教育を行う点にあった。しかし日本では、研究自体を大学の目的とし、長らく、学問の自由と大学の自治権を重視するいわゆる学問の府としての大学だった。そのため今も産学のつながりはさほどない。

◆産学の人材交流必要

 農学系学部の隆盛を一時的なものに終わらせないためには、いわゆる「産学」の目標の一致点を見いだして、共同研究などの連携を模索していけるかどうか。産学の人材交流なども大切だ。

 すでに経済産業省刊2011年版「ものづくり白書」で、地場産業や地域活性化のための人材を生み出す地方大学の存在が注目された。また政府が、大学の研究機関を介在させたベンチャー企業の育成・援助を積極的に進め、産業界への技術移転の方策も模索していくことも強調された。

 これに対し東大や筑波大など拠点大学ではすでに企業と合同出資した技術移転機関が設立されたり、独立の企業を立ち上げ実績を上げている。しかし気を吐いているのは中央の有名大学が大方。地方の大学の人材を生かすには、産官学のきめ細かい連携が必要な時代となっている。

 この点を突く「大学の生き残り策」の特集が必要だ。

(片上晴彦)