謀略説が好きなアラブ人


地球だより

 エジプトの首都カイロ一の市場があるアタバで5月、2日連続して火災があった。

 放火らしいとの推測から、誰が犯人かをめぐって、住民の間にいろんなうわさが流れたが、イスラム組織ムスリム同胞団による、国民に不安を醸成して混乱させようとの目論(もくろ)みだとする意見がある一方で、政府の仕業と息巻く人たちもいる。この地域は、大小の商店が乱立、交通も常に渋滞して、街の近代化からは取り残されている地区なので、政府は、これを焼き払って、近代的な町に再編したいがために放火したのだとの意見だ。

 エジプトを含むアラブ地域には至る所に謀略説があり、結局は結論を得ずに終わることも多いのだが、謀略説の代表例は、米国によるアラブ諸国の分断政策というものだ。

 この説は記者も至る所で出くわす説で、学者や外交官、ジャーナリスト、サラリーマン、若者、学生に至るまで、かなり広く浸透している。すなわち、米国はイスラエルを守るため、アラブ各国の力を削(そ)ぐ政策に集中しており、各国をより小さな地域に分断し、対イスラエル攻撃力を弱めようとしているのだという。その最良の方法は、内戦を起こさせることで、実際、シリア、リビア、イエメン、イラク、レバノン、パレスチナと、現在、内戦あるいは闘争状態に突入している国は多く、エジプトもその危険性があったとみる。「ほら事実だろう」と畳んでくるのだ。

 宗教・宗派間の対立や、権力を求める国民自身の責任を顧みず、全ての責任は米国にあるとする論理に違和感を感じながらも、いつになったらこの中東地域に平和が訪れるのかと気が遠くなる思いにさせられる。

(S)