イラクなどで大規模自爆テロ頻発

イスラム各派が主導権争い

 自爆テロによる大量殺戮がこのところ急増してきた。主要な理由は、勢力後退傾向がみられる過激派組織「イスラム国」(IS)による“焦燥感”とみられている。そもそも、全世界を舞台にした異常な暴力の嵐は、イスラム各派による世界制覇の主導権争いとの見方もある。最近、国際テロ組織アルカイダの前最高指導者ウサマ・ビンラディンの息子が名乗りを上げた。過激派組織の合従連衡の動きも見られる中、解決の鍵は一体どこにあるのか。(カイロ・鈴木眞吉)

シーア派を警戒するスンニ派

過激派組織に合従連衡の動きも

 5月に入り、イラクやシリア、イエメン、リビアで、ISによる大規模自爆テロが発生した。特にイラクで激増し、5月1日に同国南部サマワで33人が殺害されたのを皮切りに、1カ月間で200人以上が死亡、シーア派のグリーンゾーン侵入のデモも2回行われ、20日に4人が死亡した。

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5月23日、シリアの地中海沿岸ジャブラで発生したテロで破壊された車(AFP=時事)

 シリアでも、ISが「首都」と位置付けるラッカで若者ら4人を斬首したことを皮切りに、14日には、東部デリゾールで病院を襲撃、政府軍兵士20人を殺害した。

 イエメンでは15日、同国ハドラマウト州の州都ムカラで、自爆攻撃を含む2度の爆発を起こし、警官ら計47人を殺害している。リビアでも18日、中部シルト付近で、リビア統一政府を支持する治安部隊を攻撃、32人を殺害した。リビアでは、ISとナイジェリアの過激派武装組織ボコ・ハラムの連携強化への懸念が高まっているとの情報もある。ボコ・ハラム戦闘員がサハラ砂漠を越え、リビアのIS拠点に続々と流入していることが指摘されている。

 エジプト機が19日、アレキサンドリア沖に墜落、乗員乗客66人が死亡したのも、テロのよるものとの疑念が消えない。

 あるエジプト人ジャーナリストが数年前、当時のテロリスト集団の動きについて「これは、各イスラムグループの主導権争い」と答えた。イスラム教の本質をよく分かった人物でなくては出てこない答えだ。

 このジャーナリストの言う通り、大きくはイスラム教スンニ派とシーア派との主導権争いだ。

 シーア派国家イランは、「イラン・イスラム革命」の輸出を至上命令として活動しているのであって、各地のテロ支援も核問題解決もすべて、イラン・イスラム革命輸出のための一齣であり、イラン系イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラやイエメンのシーア派フーシ派の活用もその一齣(ひとこま)に過ぎないとみられるというのだ。

 シーア派によるイスラム世界制覇主導を警戒し、スンニ派による主導に命を懸けているのがサウジアラビアで、湾岸諸国を基盤に、スンニ派諸国との連携を深めてイランを牽制(けんせい)、スンニ派過激派組織へのテロ支援を行いながら、イスラム世界制覇への主導権争いを激化させている。

 しかし、スンニ派内の主導権争いも熾烈だ。ISを先頭に、国際テロ組織アルカイダ、イエメン中心の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)、北アフリカ中心の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)、シリア中心のヌスラ戦線、ナイジェリア中心のボコ・ハラム、アフガニスタン、パキスタンに勢力を持つタリバンなど、200とも300とも言われるスンニ派各派の主導権争いが続いている。3月17日には、シリアの首都ダマスカス東郊の東グータ地区で、同じスンニ派のシリア反体制派同士が衝突、52人が死亡した。これは、国連が仲介する和平協議で、反体制派を代表する「高等交渉委員会」(HNC)に加盟の主要組織「イスラム軍」とヌスラ戦線の戦いだった。

 そんな中、アルカイダの最高指導者だった故ビンラディンの息子のハムザ・ビンラディンが5月14日までに、肉声を伝える動画を公開、さまざまな勢力の聖戦主義者に対し、結束を呼び掛けた。ハムザの年齢は二十代前半か半ばとみられ、現在の50~60歳代の指導者に代わり、次世代を担う存在に成長する可能性が指摘されている。米国の情報当局者は、アルカイダが、将来の指導的な地位に据えることを狙って育成している可能性があるとの見方を示した。

 しかし、聖戦思想に基づくイスラム各派の主導権争いが全世界的な暴力やテロの原因とすれば、国際社会は、難民問題も含めイスラム教徒によって振り回されていることになり、それを主導するイスラム指導者の責任は重大だ。国際社会はそれをしっかりと見て、イスラム対策を改めて講ずる必要がありそうだ。