オバマ氏のシリア増派に「不十分」「危険」と支持・反対両派から批判
◆出口の見えない情勢
オバマ米大統領は4月25日、シリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで後方支援を強化するため、最大250人の米兵を増派すると発表した。このところ、イラクでのISの劣勢が伝えられ、これを機にシリアでの攻勢を強化したい意向とみられるものの、規模が小さく「臆病で優柔不断」(ヨルダン・タイムズ紙)と指摘される一方で、増派は「危険」(米紙ニューヨーク・タイムズ)と批判されるなど、米国のシリア介入反対、支持両派から非難の声が上がっている。
オバマ大統領は、ISについて「最も差し迫った脅威」と訴えた。発表がドイツだったのは、欧州への積極関与を促す目的もあったのだろう。海外の紛争への関与に否定的で、米兵の戦闘への直接の参加を拒否してきた大統領にとっては、思い切った転換なのだろう。しかし、出口が見えてこないシリア情勢の中で追い込まれ、選択肢が狭まっている感は否めない。
シリア、イラクなどへの派兵に反対してきたニューヨーク・タイムズ紙はさっそく、社説「シリアへの危険な介入拡大」を掲げ、増派へ懸念を表明した。
◆派兵の目的に触れず
同紙は、250人は「小規模に見えるかもしれない」とした上で、「シリアへの介入拡大を懸念する十分な理由がある」と指摘した。「議会からの承認を得ないまま、軍事作戦や活動に関与する」ことが一点。政府からの要請を受けて派兵しているイラクの場合と違い、「明確な法的な権限」がないこともその根拠だ。いずれも重要なことだが、何のための派兵であり、軍事介入なのかは全く触れずじまいだ。
その上で、増派は「深刻なリスクと、数多くの答えの出ない疑問」を生じさせ、「その中で最も重要なのは、増派は将来の米国の関与にどのような意味を持ち、この戦争をどう終わらせるかだ」と指摘したものの、今後米国が対IS戦線で取るべき姿勢については何も示していない。
ロシアが介入を続けていることについても、「持続的平和への意思と関与への疑念」を生じさせるというが、欧米の及び腰がロシア介入を招いたとの指摘もよく聞かれる。
シリアの南に国境を接し、数多くのシリア難民を受け入れているヨルダンのヨルダン・タイムズ紙は、オバマ氏の増派発表に対し、社説「優柔不断の代価」で「まだ不十分」と厳しく批判。「ほぼ5年間にわたるシリアへの腰の引けた、優柔不断な政策のために、ロシアの陸空海からの大規模な介入を許した。米政府が取り得る選択肢はあまり残されていない」と指摘した。
オバマ政権の内戦終結への取り組みについても、「米政府のシリア政策は、着実に一貫して、この危機への平和的解決を追求してきたが、そのために必要な基盤がないままでは無理な話だ」とした上で、現状の平和交渉を「非現実的だ」と切って捨てた。
また、「シリアのさまざまな勢力を支持する米国など外部勢力は、これまでの方針、『支援』が失敗したことを認め、転換すべき時だ」とISとの戦いの行き詰まりを指摘している。
◆現状に悲観的な見方
一方、米紙ワシントン・ポストのジャクソン・ディール社説担当副編集長はコラムで、イラクのモスル、シリアのラッカをISから奪還するには、「兵力はもちろん、資金、政治的指導力、(中略)有効なビジョン」が必要だと、対IS作戦の現状に悲観的な見方を表明した。イラク北部のモスルは2014年にISが支配し、イラク軍などが奪還へ作戦を進めている。シリアのラッカは、ISが首都と主張している町でラッカ陥落はISにとって大きな打撃となる。
その上で「米国のシリアとイラクでの対応の遅れがイスラム国の誕生を助けた。イスラム国は、米政府の介入を乗り切るだろう。これがバラク・オバマ氏のレガシーの最も不快な部分だ」と、オバマ政権の対応を非難した。
ISが、イラクとシリアに生じた力の空白を利用し勢力を拡大したのは確かだ。それを生んだのは一部には欧米の腰の引けた対応がある。シリア増派は前向きな変化だろうが、依然出口は見えてこない。
(本田隆文)