核について踏み込む政府答弁に「持てない理由」を文春で説く佐藤優氏

◆「庶民感覚」盾に難癖

 舛添要一東京都知事の公用車別荘通いを週刊文春(5月5・12日号)がスクープした。だが、「公用車」「別荘」というだけで「庶民感覚」を盾に「贅沢な!」と決め付けて批判しているようで、難癖にも見える。

 非常事態のときに都内にいない(別荘は神奈川県)ことから「危機管理」を批判の理由にするが、むしろ知事本人が遭難して役目遂行ができなくなるよりもよほどいいではないか。

 高額な海外出張費など、都知事の行動が彼の仕事ぶり・実績と比べて「過分」なのか、「つりあっている」のかを冷静に検証した上で、批判すべきことがあればすべきだ。「あなたの仕事ぶりでは、エコノミークラスでシングルルームがせいぜい」というなら、その「仕事ぶり」をしっかりと示さなければならない。

 「スウィートルーム」も来客の応接やスタッフとの会議を考えれば、機能的とも言える。実際、別途応接室や打ち合わせのための会議室を借りれば、その方が費用が掛かる。

 舛添氏が叩かれたのには別の理由がありそうだ。そもそも同誌はこの話を「都庁関係者から匿名を条件に」聞いて、取材を開始した。知事の別荘通いを快く思っていない都庁関係者の“タレこみ”なのだ。

 タレこみは報じられることを前提に、相手にダメージが加えられることを期待して行われる。そこには「都庁関係者」の意図が明確にあったわけだ。それが「血税を無駄に使っている」という「義憤」なのか、単に「陥れよう、評判を下げよう」という謀略なのかは、タレこみを受けた側が慎重に判断しなければならないことだ。

◆原発稼働が非核保障

 さて、今号の文春にはもっと興味深い記事が載っている。連載コラム「池上彰のそこからですか!?」で池上氏が作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏と行った対談だ。「日本が核兵器を使う日」という刺激的な見出しが付いている。

 米大統領選では共和党候補争いでドナルド・トランプ氏が、「日本の核武装もあり得る」と発言した。「非核三原則」が身に染み込んでいる日本国民からしたら、「えっ?」という話だ。

 ところが、内閣法制局長官が、「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているという風には考えていない」と発言したり、閣議で「憲法九条は一切の核兵器の保有および使用を禁止しているわけではない」という答弁書を決定していることから、核について政府はかなり踏み込んできている。

 現在、日本には核の材料である「プルトニウム」が「四十八トン」あり「何千発も造れる分量」がある。佐藤氏は「だから日本が核兵器を持つ、と決めたら二年以内に持てるのです」といって、もう日本が核兵器を作りそうな勢いなのだ。

 だが、現実的に日本が核兵器を持てるか、というと話はぜんぜん違う。まず核兵器の材料であるプルトニウムが抽出される原子力発電所はすべて国際原子力機関(IAEA)によって厳しい監視の下に置かれている。5年前の福島第1原発事故の時、真っ先に駆け付けてきたのが米軍とIAEAだ。核燃料の管理が彼らの最大関心事だったという。

 もし、日本が核を持とうとすれば、IAEAを脱退し、国連安保理からの制裁をものともせずに突き進むしかない。だが、日本にそんなことはできない。その理由を佐藤氏が説明しており明快だ。「『脱原発』をしないことが、逆に核開発をしない国際的な保障になっている」というのだ。どういうことか。

 プルトニウムは100%輸入に頼っている。日本が核開発すると一言でもいえば、輸入はストップし、エネルギー危機に陥る。よって日本が原発を稼働させている限り、供給が止められるような状態はつくらない、ということだ。

◆“詐欺”に近い見出し

 これだけ、わが国が核兵器開発できない、しない理由を池上氏も佐藤氏も述べているのに、「日本が核兵器を使う日」という見出しは“詐欺”に近い。実際は「日本が核武装できないこれだけの理由」とすべきだったのではないか。もっとも、対談後半の米大統領選の行方次第では別の展開になる可能性も否定できないが…。

(岩崎 哲)