サウジ・イラン、宗派対立を激化させるな
中東の大国サウジアラビアとイランの関係悪化で、地域の不安定化へ懸念が強まっている。直接の原因はサウジのイスラム教シーア派高位聖職者ニムル師の死刑執行だが、長年の宗派対立がその根底にある。
大使館放火で国交断絶
サウジはイスラム教の多数派スンニ派の盟主を自任、イランはシーア派を国教とする地域の大国で、歴史的に鋭く対立してきた。1980年代のイラン・イラク戦争でサウジはイラクを支援。91年の湾岸戦争ではイランが中立の立場を取ったが、サウジは参戦し米国を支援した。
シーア派は全イスラム教徒の1割程度とされ、イランは革命後、各国内のシーア派を支援してきた。その一つの成功例が、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラだろう。イスラエルに対抗するために組織され、強大な軍事力を持つ一方で、政党としてレバノン政治にも大きな影響力を持つ。イランは近年では、シリアとイエメンの内戦でシーア派系勢力を支援。サウジと真っ向から対立している。
また、サウジの隣国バーレーンはシーア派が多数派だが、スンニ派の王家が支配し、同国の反政府活動にもイランが関与しているとみられている。2011年からの「アラブの春」では、サウジ主導の湾岸協力会議(GCC)軍が介入し、シーア派住民の反政府デモを鎮圧した。ニムル師は11年から12年にかけ、サウジでのシーア派による反政府デモを支援したとして拘束され、14年に死刑判決を受けた。
執行をめぐって、イランからはサウジの国内問題の隠蔽(いんぺい)という見方が出る一方、国際社会では米国など6カ国との間で核合意を交わし、今後力を増してくるであろうイランへの牽制(けんせい)と見る向きもある。資産凍結などの制裁が解除され、イランは巨額の資金に手にする。サウジは強く反発しており、そのため米国との関係もこのところ微妙だ。
死刑執行を受け、イランなどのシーア派の間で激しい抗議デモが発生、テヘランのサウジ大使館、マシャドの総領事館が襲撃され、放火された。サウジは直ちにイランと断交し、バーレーン、スーダン、ジブチ、ソマリアがこれに追随、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールは大使を召還した。いずれもスンニ派の国々であり、スンニ派とシーア派の対立構図がはっきりと見て取れる。
サウジは、これまで国外の紛争などに慎重な対応を取ってきたことで知られる。だが、昨年初めの新国王即位以降、シリア内戦参戦、イエメンのシーア派攻撃など、積極関与に転じたようにみえる。昨年12月には過激派組織「イスラム国」(IS)などの問題に対応するための「イスラム軍事連合」の発足を発表した。イスラムの名前を冠しているものの、イラン、イラクなどは参加しておらず、シーア派を牽制する狙いがあるのではないかとみられている。
和解はわが国にも重要
米国は事態の鎮静化を呼び掛けた。両国の対立はISとの戦いにも悪影響を及ぼす。宗派対立解消への道筋の模索は、中東地域の安定化につながる。それは原油の多くをこの地域に依存するわが国にとっても重要だ。
(1月9日付社説)