イエメン内戦 鍵は部族間の権力バランス
イエメン水資源・環境省顧問 アブデルラフマン・エルヤーニー氏
イエメン内戦は隣国サウジアラビアを巻き込み泥沼の闘争を呈している。イスラム教宗派間の紛争という一面がある一方で、権力、利権をめぐる争いでもあり、いまだ解決の糸口は見えてこない。イエメンの旧サレハ政権で水資源・環境相を務め、現在もハディ暫定政権の水資源・環境省顧問を務めるアブデルラフマン・エルヤーニー氏にイエメン情勢について聞いた。(聞き手=カイロ・鈴木眞吉、写真も)
報復に血眼のサウジ 抵抗続けるフーシ派
――イエメン内戦の現状をどう見るか。
(イランの支援を受けるイスラム教シーア派組織)フーシ派は敗れつつある。しかし、彼らはイデオロジストであり、簡単には負けない。打ち負かすのには長い時間がかかる。サウジアラビアは、アデンで勝利を味わった。フーシ派を打ち負かせると考えている。アデンのような戦いを続けられると考えている。フーシ派やその支持者は頑強だ。故郷から遠く離れたアデンで戦っている。フーシ派は支持基盤の北部に行けば、さらに優位な戦いを進められるだろう。首都サヌアには多くの支持者がいる。本格的な戦闘に発展して、世界遺産となっている旧市街を含めた都市が破壊されるような事態は避けたい。
――フーシ派とサレハ前大統領との関係は。
フーシ派とサレハ氏は同盟関係のように思われているが、互いに利用しているだけだ。サレハ氏は状況が変われば、フーシ派と戦うだろう。暗殺未遂事件があって以降、正常な判断能力を失った。権力の座を追われたことに対する報復しか頭にない。
サレハ氏は優れた頭脳を持っている。しかし、いかに権力者として生き延び、一族の資産を増やすかということしか眼中にない。暗殺未遂後は、こうした彼の思考が一段と先鋭化したように見える。
――フーシ派とサレハ氏が、これだけサウジと戦える理由は。
イエメン軍の90%はサレハ氏を支持している。アデンでサウジと戦っていたのもイエメン軍だ。ハディ(暫定)大統領は、イエメン軍の再建を目指して上級幹部を入れ替えた。しかし、サレハ氏は何十年もかけて自分のための軍隊を作ってきた。サレハ氏は下士官を使ってイエメン軍を動かしている。イエメン軍の大半は伝統的にザイド派だ。フーシ派はイランの支援を受けていると言われるが、物理的なイランの支援は限定的だ。戦術的なアドバイスが中心だ。
イエメンの戦いは、宗派的な内戦ではない。部族や権力者による権力や利権を懸けた争いだ。しかし、サウジやイランの介入によって宗派紛争的な色彩が出ていることは否定できない。ただ、イランとザイド派は、同じシーア派系といえども、思想的な共通項は少ない。ザイド派はスンニ派との類似点の方が多い。レバノンのヒズボラとイランの関係とは違う。
――サレハ氏はもともとサウジに支えられてきたのではないか。
サレハ氏は1978年の大統領就任時にサウジの支援を受けた。その後、アルカイダやフーシ派の脅威、イランの影響を声高に主張して、米国やサウジから巨額の資金を引き出してきた。サレハ氏はサウジを操ることができると考えたようだが、最後にはサウジに見限られた。もはやサウジとサレハ氏が和解することはないだろう。しかし、そのサウジも米国に操られている。イラン核合意にサウジは苛(いら)立っている。米議員に巨額の資金を渡して、合意をほごにさせようとしている。オバマ大統領としては、現時点でサウジを怒らせることは得策でないと判断しており、イエメン空爆も自由にやらせている状況だ。しかし、サウジは米国に武器や兵站(へいたん)を依存しており、米国がノーと言えば、それに従うしかない。
――イエメンは部族の力が強く、伝統的に部族間の対話で困難を解決してきたが。
サレハ政権下でサウジや米国から巨額の資金が流れ込み、部族はカネに目がくらんでしまった。残念ながら部族間の対話に事態の解決を期待することはできないだろう。もともとフーシ派と戦っていた部族がフーシ派側に鞍(くら)替えしたケースもある。これはサウジがこの部族を反フーシ派に転じさせるために、巨額のカネを支払うことを期待してのことだ。部族はカネになるなら、簡単に寝返る。
現在の衝突は、国民和解合意によって権力を失う人たちが出ることが明確になって以降、戦闘に発展することは予期された。
解決には、国際社会の仲介による解決が期待されるが、サウジは指導部の交代で政策展開が未熟だ。フーシ派を打ち負かせると考えているし、フーシ派も抵抗をやめることはないだろう。サウジは、サレハ氏に対する報復に血眼になっている。最終的には部族間の権力バランスに配慮した解決策しかない。











