IS、パルミラ遺跡破壊 背景に「偶像崇拝禁止」
ユネスコが「戦争犯罪」と非難
【カイロ鈴木眞吉】シリア中部にある世界遺産「パルミラ遺跡」の中でも最重要と位置付けられているベル神殿の一部が8月30日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」により破壊された。国連訓練調査研究所が同日、衛星写真を公開、「ベル神殿の中心となる建物と、すぐ側にある柱の列が破壊された」ことを確認した。
ベル神殿は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)関係者からも「最重要な宗教施設の一つ」との評価を受けている、1世紀に建設されたパルミラに現存する最大規模の神殿。
ISは、同遺跡中2番目に重要とされるバールシャミン神殿の爆破の映像を8月25日に公開、18日には、パルミラの元管理責任者で考古学者のハーリド・アスアド氏(81)を斬首し、遺体を遺跡内の列柱につるしており、その蛮行はとどまるところを知らない。
世界中からの激しい批判を受けながらも、蛮行を続ける理由の一つは、イスラム教徒が普遍的に持つ「偶像崇拝禁止」の信仰がある。信仰の強弱や、文字への固執の度合いの違いによって、適用への厳密さは異なるようだが、最重要聖典「コーラン」の言葉やイスラム思想の言葉そのものに固執しようとするグループであればあるほど、その適用の程度が厳しいようだ。
歴史的に、偶像崇拝禁止の考えは、旧約聖書20章3-5にある、神が旧約の預言者モーセに語った言葉「あなたは私のほかに、なにものも神としてはならない。あなたは自分のために刻んだ像を造ってはならない。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水の中にあるものの、どんな形をも作ってはならない。それにひれ伏してはならない。それに仕えてはならない」から始まったとされる。
イスラム教も聖書を是認していることから、偶像崇拝禁止の考え方を引き継いでおり、コーランの中にも、雌牛章255節には「アッラー、彼の外に神はなく、永遠に自存される御方」とあり、物語章88節には、「アッラーと一緒に、他のどんな神にも祈ってはならない。彼の外には神はないのである…」とある。
ただ、イスラム教は、ユダヤ教やキリスト教に比較し、偶像崇拝禁止姿勢が強く、神だけでなく、預言者ムハンマドの顔すら描くことをよしとしない。イスラム過激派のみならず、一般信徒でもその姿勢の強さは他宗教の信徒に比較し、際立っている。
ただ、歴史遺産の破壊は、「自分の信じる宗教だけが正しい」とする、独善的・排他的姿勢から出発し、その延長線上に「改宗は死」というような、他宗教・宗派を全面否定する行動につながっている。
ユネスコのイリナ・ボコバ事務局長は8月24日、ISによるバールシャミン神殿爆破を「戦争犯罪」と非難する声明を発表した。
イスラム教がより「大人の宗教」に脱皮する必要性があるとの指摘も方々から聞かれる。