レバノン、ごみ問題の背景にイスラム組織
レバノンで、ごみ処理問題への抗議デモを契機に、同国政治の混乱が浮き彫りになっている。その根底には、強大な政治的影響力、軍事力を持つイラン系イスラム教シーア派過激派民兵組織ヒズボラ(神の党)の存在がある。(カイロ・鈴木眞吉)
宗教対立で政治が機能せず
ごみ問題の発端は、今年7月中旬、政府がごみ処理場を確保できず、街中にあふれた未回収のごみが悪臭を放ち始めたことにある。
8月19日に始まった抗議行動は、同22日、首都ベイルート中心部の首相官邸前での数千人の抗議集会へと発展した。
サラーム首相が、「過度な武力行使者には責任を取らせる」と断言したものの、デモ隊は翌23日、内閣総辞職を求めて治安部隊と再衝突、70人が負傷し、2日間で少なくとも86人が負傷した。
8月29日には同国最大規模のデモに発展、9月1日には、数十人が環境省庁舎の一部を占拠した。
レバノンは、多数の宗教・宗派が混在する「モザイク国家」で、過去の内戦を教訓に、大統領職をキリスト教徒、首相をイスラム教スンニ派、国会議長をイスラム教シーア派から選出するなど宗教・宗派間の融和を優先する政治を行ってきていた。
しかし、隣国シリアの内戦の影響を受け、宗教・宗派対立が激化、政治が機能しない状態が続いている。
エジプトのアルアハラム財団のモハメド・ファイエズ事務局長は「ヒズボラは現在のレバノンのがんだ」と言い切った。
「ヒズボラは選挙をさせないこと、政府を働かせないこと、政府をとても弱くすることに成功した。大臣間のバランスを破壊し、政府や国家、街頭レベルでも、軍や外国に対しても、多くのカードと影響力を持っている。ヒズボラはレバノン国軍よりも大きな軍事力を持ち、既に国家よりも強くなった」とも指摘、ヒズボラの横暴さがレバノン政治をまひさせている現実を指摘した。
2008年の挙国一致内閣で、ヒズボラを含む野党勢力は、全閣僚ポスト30のうち11に対する影響力を確保し、事実上の「拒否権」を手にしたことが影響している。ヒズボラは軍事力を背景に、脅迫や脅しで議会と政府を私物化している。
ヒズボラは1982年に結成されたレバノンのシーア派イスラム主義の政治組織で、イラン型のシーア派イスラム国家をアラブ諸国ひいては全世界に拡大する「シーア派革命輸出の先兵」だ。彼らの行動は、イランの指令を受け、レバノンという国家よりもシーア派国家・世界の実現を優先する体質を有している。
日本はもちろん、欧州連合(EU)、米国、英国、カナダ、豪州、イスラエル、オランダ、エジプト、バーレーンなどが、ヒズボラの全体または一部をテロ組織に指定している。
ファイエズ氏は解決策として、「レバノン国民が国家意識を持って団結し、国家を分断支配しようとするヒズボラとイランとの関係を断絶させ、国軍を、ヒズボラをしのぐものとすべきだ」と結んだ。