中東5ヵ国参加のシリア空爆の意義大きい
オバマ米政権はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」のシリア領内の拠点に対する初の空爆に踏み切った。
今回の作戦には、ヨルダン、バーレーン、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の中東5カ国が参加した。イスラム国がイスラムとは名ばかりで「近代文明」を脅かす組織であり、イスラム教徒を含む人類共通の敵であることが明白になったと言える。
孤立した「イスラム国」
米軍が空爆をイラクからシリアに拡大させたのは、シリアの「聖域」にイスラム国の戦闘員が逃げ込めるからだ。
ケリー米国務長官は「イスラム国は人間を斬首するだけではない。全ての文明を破壊し、人命も宗教も尊重しない」と訴えたが、その通りだ。イスラム国は米国人ジャーナリストを含む3人を殺害する映像を公開したことで、その残忍さが全世界に強く印象付けられた。
サウジで影響力を持つ高位聖職者評議会は、国民にイスラム国への参加を禁じる声明を出した。イスラム国がイスラム教の教義を逸脱していることが第1の理由だ。さらに、指導者のバグダディ容疑者を「カリフ」とあがめ、全イスラム教徒に忠誠を求めることは、君主制の否定につながり、君主制の湾岸諸国にとって危険な存在となっているためだ。
今回の攻撃に中東5カ国が参加したことで、イスラム国に対する国際的包囲網が強化された意義は大きい。
反米感情の強かったアラブの国々が掃討に加わることで、イスラム国はアラブ世界からも孤立する格好となった。オバマ大統領は今回の軍事作戦について「米国対イスラム国ではなく、世界対イスラム国だ」と強調してきた。
米国と敵対関係にあるシリアのアサド政権も、空爆容認の姿勢を示した。シリア外務省は米政府からシリア政府に空爆開始の数時間前に連絡があったことを明らかにしている。
その背景には、アサド政権自身がイスラム国に手を焼いているという事情がある。たとえアサド大統領の退陣を迫ってきた米国であっても、シリアで勢力を拡大しつつあるイスラム国を攻撃してくれる限りは「有り難い存在」だ。
ロシアと中国も、これまではことあるごとに中東地域での米国の軍事行動を批判してきた。ただ両国とも、イスラム国などの過激派組織と関係を持つとされている国内勢力への対応に苦慮しており、今後の出方が注目される。
もっとも、空爆だけによる掃討には限界がある。米国はシリアで地上戦を担うシリア反体制派への軍事支援も強化し、イスラム国の支配地域縮小を目指すとしているが、反体制派の軍事訓練には1年近くを要する見通しだ。シリア空爆が結果的にアサド政権を利することへの注意も求められる。
「テロとの戦い」支援を
イスラム国には、欧米諸国の若者も参加しており、彼らが母国でテロ活動を行うことが懸念される。
国際社会は「テロとの戦い」への支援を強化すべきだ。
(9月25日付社説)