宗派対立克服でイラクの分裂回避を
イスラム教スンニ派の過激派武装組織がイラク北部の支配地域を拡大しつつあり、同国は分裂の危機に直面している。イラクは石油の主要産出国としてわが国にとっても無視できない存在であり、混乱の拡大は中東全域を不安定化させる。
日本を含めた西側諸国はイラクの分裂回避に全力投球すべきである。
米国は介入ためらうな
イラク情勢緊迫化の根本原因は宗派対立である。マリキ政権は自らが属するシーア派を優遇しているため、スンニ派住民の不満は根強い。
スンニ派の過激派組織「イラク・シリアのイスラム国」が勢力を伸ばし、イラク支配を狙っていることが憂慮される。そのような事態回避へ早急に手を打たねばならない。
マリキ政権は「テロ対策」と称して、政権内のスンニ派を冷遇した。石油で得られた利権もスンニ派に分配せず、国内でシーア派との間の経済格差を拡大させた。
このためイラクではスンニ派が抑圧されているとして、スンニ派が政権を握るサウジアラビアやカタールは「イスラム国」を積極的に支援しているという。マリキ政権はスンニ派の恨みが深いことを自覚すべきだ。
両派の和解のためには、マリキ政権やシーア派指導者が国民融和のための体制構築を目指して、スンニ派との対話に乗り出すことが必要だ。その点でイラクの分裂回避に米国が全力投球することが望まれる。
米国はイラクに近いペルシャ湾に空母やミサイル巡洋艦などを派遣した。オバマ米大統領は「イラクに米兵を送らない」と述べ、地上部隊の派遣を明確に否定したが、このままではイラクでの内戦の危機は深まるばかりだ。オバマ大統領に対し、米国内では「何もしない大統領」との批判が高まっている。介入をためらってはならない。
オバマ大統領が軍事行動を含む支援策を決める前提条件として、マリキ政権にスンニ派や同じく政府と緊張関係にあるクルド人勢力との和解に取り組むことを要求したのは賢明だった。イラクの安定に必要なのはシーア派もスンニ派も共存できる国家であることを、マリキ首相に認識させることが必要だ。
注目されるのは、緊迫化するイラク情勢をめぐり、米国がイランへ急接近していることだ。両国は34年前に国交を断ったが、「イスラム国」への対抗措置を迫られている点で利害を共にしている。
ケリー米国務長官はイランとの協力について「外部のテロリストを排除し、国を一つにするためのあらゆる建設的プロセスに門戸を開いている」と述べ、前向きの姿勢を示した。米国とイランとがイラク情勢について話し合う可能性が出てきたことは注目される。
米国とイランが接近
シーア派を国教とするイランはマリキ政権との間に太いパイプがあり、イラク危機乗り切りにオバマ政権もイランとの協力を視野に入れざるを得なくなったとみてよい。
米国とイランの接近という新事態が何を生むか、中東情勢を注視する必要がある。
(7月18日付社説)