成長戦略素案、安定成長へ試される実行力
政府は産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)に改定成長戦略の素案を提示した。「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」を目標に、雇用、農業、医療の3分野でいわゆる「岩盤規制」を打破する改革を盛り込んだ。
総花的な印象が拭えないが、意欲的で評価できる点も少なくない。27日閣議決定の予定だ。あとはどれだけ迅速かつ強力に実行できるかである。
「稼ぐ力」を取り戻す
わが国は2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の再稼働が進まないこともあり、原油や液化天然ガス(LNG)などの輸入が膨らみ、円安の影響も加わって貿易赤字が拡大。経常収支も黒字が縮小し、赤字に陥る月もある。
製造業の生産拠点の海外移転が進み、輸出が増えにくい構造的要因も指摘される。少子高齢化の進展により、わが国は数年前から人口減少時代に突入し、活力低下も懸念される。
こうした危機意識を背景に、素案は「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」ことを目標に掲げた。この方向性は間違っていない。
人口減少そのものを食い止める策は別として、素案は国際的にも高い法人税の実効税率を数年で20%台までに引き下げることを明記した。また、国家戦略特区を中心とした規制改革の推進を通じて「世界に誇れる事業環境」を整備し、国内外の企業による投資を活発化させ、創業・起業やイノベーション(技術革新)で中長期の成長を図るという。
独立社外取締役の導入など企業統治改革も、経営の透明性を高め海外投資家などが投資しやすい環境を整えるという意味で、理に適(かな)っていると言える。
企業経営者には、こうした改革を生かし、法人税率の20%台への引き下げ――財源をどう確保するかで課題もあるが――に合わせて、設備投資や賃金の上昇など成長に向け手元資金を有効かつ積極的に活用するよう促したい。
昨年は、「アベノミクス」の第1、第2の矢である大胆な金融緩和と機動的な財政政策により景況感の改善が進み、前半までは株価も上昇傾向が続いた。昨年6月発表の成長戦略は、しかし、多くの市場関係者に踏み込み不足を指摘され、株価は低迷。ウクライナ情勢など海外環境の影響もあり、その後は一進一退の状況が続く。今回の改定版はその反省に立ち、安倍政権の本気度をアピールした格好である。
その意味で、雇用、農業、医療の「岩盤規制」の打破は確かに目玉だが、総花的な印象が拭えず、達成の困難さを予想させるものもある。素案の柱の一つである女性の活用も、少子化対策と矛盾しないかなど多角的な視点が欠かせない。
また、成長戦略は中長期の安定的成長を目指すという性格上、「目標達成までが長く、経済効果が認識しづらい」(経済官庁幹部)という面もある。
できることから着実に
「骨太の方針」とともに閣議決定の予定だが、迅速かつ強力に実行すべきである。
奇をてらう必要はない。できることから着実に進めることである。
(6月19日付社説)