化学兵器全廃へ支援が急務/対シリア決議
国連安全保障理事会はシリアに化学兵器廃棄を義務付ける決議案を全会一致で採択した。内戦発生以来、シリア問題に関して拘束力のある決議が採択されたのは初めてだ。
だが、シリア側が内戦を理由に応じない恐れもある。国際社会はシリアに確実に決議を履行させた上で、内戦終結につなげる必要がある。
査察には多くの課題
安保理決議は、化学兵器使用は国際社会の平和と安全に対する脅威とした上で、8月21日のダマスカス近郊での使用は国際法違反として「最も強い言葉で非難する」とした。さらに、化学兵器禁止機関(OPCW)の廃棄に向けた実行計画を支持し、これに従うようシリアに求めた。計画では、2014年中にすべて廃棄させる。
採択は、米露両国が歩み寄ったことを意味する。決議には違反行為があった場合、国連憲章7章に基づき措置を科すとする条項を盛り込んだ。ただ、制裁などを決め発動するには新たな決議が必要になる。違反を受けて自動的に強制措置に進むのを回避することで、ロシアの同意を取り付けた格好だ。
今回の決議は国際社会が化学兵器に敏感なことの反映だといえよう。使われれば、非戦闘員の一般市民をも巻き込む。化学兵器が核兵器や生物兵器とともに「大量破壊兵器」と呼ばれているのもこのためだ。シリアで使用された神経ガスのサリンは、わが国でもオウム真理教の事件で国民の関心の的となった。
国際社会は化学兵器の規制に努めてきた。1925年のジュネーブ議定書は、毒ガスなどの化学兵器の使用を禁じた。93年の化学兵器禁止条約は、開発や保有をも禁止した。
決議が採択されたことで、シリアの化学兵器廃棄に向けた作業が始まる。アサド政権はすでにOPCWに化学兵器に関する報告を行っている。OPCWの廃棄計画は、シリア政府に全面的な協力を求めるとともに「担当者がシリア国内のいかなる施設をも無制限に査察できるようにする」と明記している。
シリア内の化学兵器の関連施設は約50カ所、その量は1000トン以上に上るとされる。しかし、OPCWのスタッフは500人以下だ。内戦が続く中、査察官の安全確保も大きな課題となる。
短期集中的な活動を遂行するには、国際社会による資金、人材、技術などの支援が急務だ。日本政府は旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の廃棄事業でノウハウを蓄積しており、人的貢献も含む具体策の検討に入っている。
決議採択後、シリア北部ラッカで政府軍が工業高校を空爆し、18歳以下の生徒らを含む12人が死亡した。内戦終結への道筋を描くことも急がれる。
ロシアは責任を果たせ
アサド政権を支援してきたロシアは、シリア問題に関して、安保理で拒否権を3度も行使した。シリアが決議に違反した場合、国際社会が制裁を求めても同調するか疑問が残る。
ロシアは化学兵器全廃に向けアサド政権に影響力を行使し、安保理常任理事国としての責任を果たすべきだ。
(10月1日付社説)