イラン穏健派に騙されるな
核疑惑交渉は時間稼ぎ
ウラン濃縮の停止を求めよ
【ワシントン】イラン「穏健派」の探索は30年たった今も続く。このところの盛り上がりを見ると、武器と人質の交換に失敗したイラン・コントラ事件のクライマックスが、レーガン大統領の元国家安全保障担当補佐官ロバート・マクファーレン氏のテヘラン極秘訪問だったことを思い出す。同氏は、「穏健派」との間の新しい関係を象徴する鍵形のケーキを持参した。
その結末はご存じの通りだ。
30年たち、その幻影がハッサン・ロウハニ大統領として再び現れた。穏健派というが経歴はそうでもない。ホメイニ、ハメネイ両師の側近として、イスラム共和国に35年間にわたって忠実に仕えた。そのうえ同師は、6人しかいなかった大統領候補の1人だった。ほかの678人の立候補者は、思想的に不適格として政府によって失格とされた。ロウハニ師が政府に完全に忠実であることの証拠だ。
ロウハニ師はハメネイ師の代理人だが、その笑顔や物腰のためにイラン穏健派の顔として歓迎されている。笑顔を絶やさないのは、西側との関係改善を望んでいるからだ。
指導者なら誰でも、経済を悪化させ、通貨の価値を下げ、広範囲に困難をもたらしている西側の制裁から逃れたいと願うだろう。だが、真の穏健派であるかどうかを示すのは、何を求めるかではなく、何を与えるかだ。制裁は、イランを苦しめるのが楽しくてしているわけではない。ウラン濃縮の停止を求める複数の国連決議を実行するためのものだ。
ロウハニ師が好きなワシントン・ポスト紙の論説でも、国連での演説でも、数々のインタビューでも、ロウハニ師はウラン濃縮に関して一歩も譲っていない。それどころか、イランは核兵器を開発していないと繰り返し主張している。これまでと同じだ。こんな見え透いたうそをついていて、実りある交渉ができるとはとても思えない。石油が有り余っている国がどうして、自国の経済を犠牲にしてまで、ドイツのような先進国が廃止に取り組んでいる原発を作ろうとするのか。
しかし、交渉の成功がイランの聖職者らが求めていることではない。欲しいのは制裁の緩和だ。そして何よりも、時間を稼ぎたいのだ。
核爆弾を作るには、20%の濃縮ウラン250キロが必要だ。国際原子力機関(IAEA)の8月の報告によると、イランはすでに186キロを保有している。核兵器保有まであと一歩ということだ。3000基の新型遠心分離機を追加している。あと少し交渉し、時間稼ぎをし、愛想を振りまき、だまされやすい西側に付き合っていればいい。
ロウハニ師がしていることはまさにこれだ。2003年から05年までイランの核交渉の責任者だった同師は04年の最高文化革命評議会での演説で、「テヘランで欧州各国と交渉する一方で、イスファハンの(ウラン転換)施設の一部に機器を設置している。…とにかく情勢を落ち着かせることができれば、イスファハンでの作業を完了させることができる」と豪語した。
西側との交渉を空回りさせながら、遠心分離機を回すというわけだ。戦略を隠そうともしない。西側に対する侮辱だ。
オバマ大統領は、イランが米国人を殺し、誘拐し、恐怖に陥れていると言ったことがある。そのイランの大統領に、世界随一の超大国である米国の大統領が握手し写真を撮ろうと言っているのに、この殺人誘拐犯はこの歓待を受けようとすらしない。ロウハニ師は、オバマ氏の申し入れを拒否したのだ。
なのに誰もロウハニ師を非難しない。メディアは新時代のノンゼロサム外交だと歓迎する言葉を論説に載せ、米政府は報道を見るとすぐに、緊張緩和が見えてきたと沸き立つ。
少なくとも話し合うことが必要だというが、これまでにどれだけの交渉が行われてきたと思っているのだろうか。10年間に、欧州連合(EU)3カ国や国連安保理常任理事国とドイツがさまざまなかたちで交渉を行ってきた。これが最後の交渉、今度こそ本当に最後と言いながら、12年にイスタンブール、バグダッド、モスクワで最後の交渉を行ったが、イランは、核問題について検討することすらせず、話し合いは終わったと宣言した。それでも今年、さらに2回の意味のない交渉が開かれる。
交渉は支持する。しかし、それは結果を出すためであり、イランの核武装のための時間稼ぎのためであってはならない。米政府は、言葉ではなく行動が必要と言う。それならば、たった一つ、信頼の証として、国連決議の順守を求めればいい。ウラン濃縮を停止すれば、話し合いには応じようと言えばいい。
ロウハニ師はNBCニュースでホロコースト(ユダヤ人大虐殺)は作り話かと聞かれて、「私は歴史家ではない、政治家だ」と答えた。イラン穏健派のお出ましだ。
話は変わるが、ケーキを持参したマクファーレン氏が27年前に、あの運命の武器と人質交換で交渉に当たったイランの3人の「穏健派」の1人が誰だったか知っているだろうか。ハッサン・ロウハニ師だ。