【海外】レバノン・ヒズボラの権勢に陰り、若い世代への支援を訴える米紙

正式名称は「レバノン共和国」。シリアやイスラエルと国境を接し、地中海に面している。その地形から豊かな歴史を持つ。

点数稼ぎの原油供給

 深刻な経済危機に直面しているレバノンにイランからの原油供給が始まった。イスラム教シーア派組織ヒズボラがイランに要請して実現したもの。原油を載せたタンカーは、イラン国旗、シリアのアサド大統領の肖像を掲げて、シリアに入港、原油を載せてレバノン入りしたトラックは、市民から大歓迎を受けたという。

 ヒズボラの指導者ナスララ師も、原油の到着を歓迎した。病院などに届けられるとともに、企業にも低価格で販売する意向だ。

 だが、これには賛否さまざまだという。

 レバノンは一昨年からの経済危機による電力、燃料不足にあえいでいる。市民にとって喉から手が出るほど欲しい石油だ。カタール本拠のテレビ局アルジャジーラは、ヒズボラの真意を警戒しつつも「背に腹は代えられない」という市民の声を伝えた。一方で、経済危機の解決にはならず、ヒズボラの人気取りにすぎないとの批判も出ている。

 エネルギー政策の専門家はアルジャジーラに「電力問題の解決にはならない」と述べる一方で、国民からの支持を得るための「政治的点数稼ぎ」と批判的だ。

 レバノンの政治、軍事は事実上、ヒズボラが押さえている。今回の原油取引も、政府は一切関与していない。このような二重構造が、政治的な腐敗、不透明性、非効率を生み、経済の破綻につながったとみていいだろう。

変化求める実業家ら

 だが、そのヒズボラの権勢にもこのところ陰りが見える。ヒズボラ支配の下で、経済が破綻したためだが、それには、米国などによるヒズボラとイランに対する経済制裁も大きく働いている。さらに、若い世代の間でヒズボラ離れが進んでいるという。

 米紙ポリティコは、「ヒズボラの支配力が弱まっている」と指摘、ヒズボラに代わる勢力を育てるために、「長い間、失敗してきた米国のやり方を変えるチャンスだ」と訴えた。

 シンクタンク、ワシントン近東政策研究所のアラブ政治専門特別研究員、ハニン・ガダル氏は同紙で、「ヒズボラはもはやかつてのように、シーア派からの支持を受けていない。特に実業家らは、ヒズボラの抵抗運動よりも、事業への関心が強く、若い世代は、内戦終結と、その後のヒズボラの台頭につながったシリアによるレバノン支配の後に育った」と指摘した。

 その上で、「変革を求めている若い世代のレバノンのシーア派を支援」するよう米国に求めた。

 レバノンでは2019年に政界の腐敗と経済的困難に抗議する大規模なデモが発生。ガダル氏によると、以後、レバノンの多数派であるシーア派内でヒズボラに代わる政治勢力の出現を求める声が強まっている。実業家、学生、ソーシャルメディアに精通した活動家、専門職を持つ若い世代らが主体であり、「これらのグループの主要関心事は、政治やイデオロギーではなく、経済と社会だ」という。

 その上で、経済支援を「公的機関ではなく市民社会」を通じて行い、政府やヒズボラの手に渡らないようにすることで、変化を求める新興グループを支援すべきだと訴えた。

ロシアも否定的姿勢

 一方で、隣国シリアで影響力を強めるロシアも、ヒズボラ支配に対して否定的な姿勢を取り始めているという見方が出ている。

 レバノンのニュースサイト「ザ・ナショナル」によると、ロシアのラブロフ外相が今月に入って、「シリア内戦などの紛争をめぐるロシア政府の最優先事項は、イスラエルの安全保障」だと述べた。

 ザ・ナショナルはこれを、「ゲームチェンジャー(形勢を一変させる大変革)」としており、今後、ヒズボラからのイスラエルに対する攻撃をロシアが阻止する可能性があるとみている。

 今や破綻国家となったレバノン。ヒズボラに代わる勢力が出現すれば、レバノン、シリアの政治状況が一変することもあり得る。

(本田隆文)