イスラム指導者の再教育実施 アズハル大学総長顧問マフムード・アザブ師に聞く
エジプト情勢と宗教
エジプトが新憲法を国民投票で成立させ、大統領選へ向けて動きだしている。政権奪取後1年で、国民と軍によって排除されたムスリム同胞団の暴動と抵抗はいまも続いている。イスラム・スンニ派総本山アズハル大学(カイロ)の総長顧問マフムード・アザブ師にスンニ派の立場を解説してもらった。
(聞き手=カイロ・鈴木眞吉)
軍弱体化の陰謀に加担するな

1947年、エジプト、モノフェイヤ県で生まれる。78年、パリのソルボンヌ大学セム系言語学部を卒業。87年、文学と人間科学の博士号取得、以来アズハル大学教授。パリのイスラム文化多言語協会でも教鞭を取る。2010年以来、アズハルの宗教対話の主任。他宗教との対話に責任を持つ。現在、アフマド・タイエブ・アズハル総長(グランド・イマム)の顧問。
――ムスリム同胞団が批判されるべき問題点は何か。
ソ連が崩壊後、とりわけ、9・11事件後、全世界で資本主義の力が増し、人間観の混乱を引き起こした。なぜなら世界は多くの選択肢を持ち、人々は求めるものを自由に選択すべきだからだ。しかし、ただ一つの資本主義、あるいはグローバリゼーション・スタイル、ただ一つの文化スタイルになってしまった。
欧米は、イスラムの若者を集めイスラム自由戦士をつくり、アフガニスタンに侵入したソ連軍と戦わせた。イスラムを守るためと言ってだました。これはイスラムに対する大きな罪だ。
若者らは自分の国に帰り、仕事を見つけられないことを発見、ただ闘争の専門家でしかないと気付いた。彼らは彼らの国でテロを起こすようになった。
民主主義の名の下に、英国は、アブ・ハムザ・アルマスリ(エジプト出身の過激なイスラム説教師)がロンドン市内に住むことを許可した。彼だけではなく、アフガニスタン帰りの元戦士たちにも許可を出した。しかし、それらのグループがロンドン市内で爆弾を爆発させると、英国は彼らをロンドンから追放した。
――エジプトのムスリム同胞団も欧米が助長したと?
9・11事件後、米国は、中東の次世代の力はイスラム勢力の手に移ると考え、彼らはイスラム主義者とコンタクトし始め、エジプトの同胞団を昨年6月30日まで支持し続けた。米国は、スンニ派の同胞団と協力し、シーア派、アラウィ派との対立を増大させた。それがイスラエルの存続にとってよいことだと考えた。
中東で、最も強い軍隊として残っているのはエジプトの軍隊だ。だから、エジプト軍の力を弱体化させ混乱させようとする陰謀がある。
エジプト人は今、教育を受けている人もいない人も、農民でも、エジプト軍を愛し、誇りとし、感謝している。軍の努力をよく知っている。
――コーランの解釈の違いから混乱が生じているのか。
多くの学者の解釈スタイルがあった。私は、最も現代的な解釈はイマーム・モハメド・アブドゥフ(エジプト出身のイスラム法学者で、イスラム教が成立した当時の精神に立ち返って柔軟な法解釈を行うべきだと主張した)だと思う。彼は、イスラムは現代の生活スタイルに反対するものではないと考えた。
最近、問題が発生したのは、教育されていない人々がモスクで間違った解釈を話したためだ。宗教を語る人は、アズハルを卒業しているか、信頼のある学校からの修了書を持っていなければならない。
6月30日以降、ワクフ相(宗教財産相)とムフティが、アズハルのシェイクと共に、穏健なスタイルに進展させるために協力した。それは人びとが、何が過激スタイルで、何がアズハルの穏健なスタイルかを理解するためだ。
金曜礼拝で決して政治的なことは話さないこと、金曜礼拝は、アズハルのコントロール下にある大きなモスクでのみ行われることなどを決めた。小さなモスクは、決して金曜礼拝を行ってはならない。小さいスペースで、イマームは話ができないし、記録も取れないからだ。イマームが政治的な問題を話し、人々が誤解して、デモをするなど多くの事件が発生した。
――アズハルとムスリム同胞団の教育の違いについて説明してほしい。
アズハルはオックスフォード大学やソルボンヌ大学と比較できる。全て偉大な教育をしている大学だからだ。アズハルは1050年前に設立された世界最古の偉大な国際大学だ。
ムスリム同胞団は、宗教政治グループで、教育組織ではない、私は彼らの思想については述べない。彼らの考えは正しいのか間違っているのか。全世界が答えを知っている。アズハルは政治問題を決して扱わない。
ムスリム同胞団は1928年にイスマイリアで創設された。彼らの目的は英国の支配を終わらせることだった。最終的に彼らは政権を得たが1年で失敗した。だから彼らはもし再出発したいなら、失敗を認識しなければならないし、合法的な政党をつくるべきだ。
――イスラム世界は今、宗教間と宗派間の争いが激化している。どう収拾するのか。
エジプトは、イスラム教スンニ派とアラウィ派、キリスト教のコプト教、カトリックやプロテスタントも、一緒に生きてきた。以前は人々の間に何の問題もなかった。それぞれが自分の方法で神を信じ、実際神はこの変奏曲を望んでいた。
私は、対話がとても重要だと言いたい。我々はお互い、衝突ではなく、話し合わなければならない。我々は一緒に生きているからだ。この国で同じ問題を持っているからだ。
アズハルの主な責任は、エジプト人をお互い協力させることだ。全ての国民の間で起こっている分裂を解くことだ。
最近、サラフィ派が、映画は禁じられると語った。それは間違いだ。映画は国家の発展や人々の感覚を説明する。
最近また、アズハルは、イスラム指導者のためのトレーニングコースをつくった。彼らが人々に真の宗教の使命(寛容、穏健、もっともっと感謝することなど)を説明するためだ。
アズハルはまた、学校の本をチェックし、もし悪いことや間違った情報を説明している本があれば停止させる。学生にはお互い愛し合うようお願いする。たとえ友人がコプト教徒でもイスラム教徒でも受け入れるように依頼した。