シリア内戦10年 利害超えて和平へ取り組め


 シリア内戦勃発から10年たったが、平和への道筋はいまだ見えてこない。

 既に40万人以上が死亡

 2010年末のチュニジアでの民主化デモを契機に始まった「アラブの春」。瞬く間に中東全域に拡大し、エジプト、リビア、イエメンなどで長期独裁政権が次々と倒れていった。

 シリアでは11年3月に反政府デモへの政権側の激しい弾圧が内戦へと発展した。現在、ロシア、イラン、米国、トルコが軍を駐留させ、南の隣国イスラエルは空爆などで、自国への脅威となるイラン系民兵に対する攻撃を断続的に行っている。

 さらにシリア国内ではアサド政権以外に、北部のクルド人勢力、反政府イスラム勢力が互いに対立。駐留各国とそれぞれに協力関係を築き、和平への動きを阻んでいる。

 ロシアは地中海を臨む拠点として海軍、空軍基地を獲得。イランもイスラム教シーア派が多い地中海にかけての「シーア派の弧」の支配確立を着々と進める。敵対するイスラエルににらみを利かせる上でもシリアは重要な拠点だ。

 米国は内戦当初、反政府勢力を支援していたが、トランプ政権が支援を停止した。今ではイスラム過激派が反政府勢力を支配するに至っている。

 米軍は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦でクルド人勢力を支援した。一方、トルコはクルド人を「テロ組織」とみて、攻撃を仕掛けており、米国がクルド勢力を庇護するという複雑な構図となっている。

 また、アサド政権による独裁と反体制派への弾圧も懸念材料だ。1970年代から続くアサド家による強権支配の下で、国民への人権侵害が起きないよう監視を続けることも必要だ。

 ロシア、イラン、トルコは2017年にカザフスタンの首都アスタナ(現ヌルスルタン)でシリア和平プロセスへの取り組みを開始した。戦闘の抑制では一致しているものの、新型コロナウイルスの感染拡大で取り組みは中断したままだ。

 昨年7月には3カ国がオンラインで会合を開催し、平和への協力で一致。19年に始まった憲法制定委員会についても、推進していくことで合意している。

 国連のグテレス事務総長は、内戦10年について会見で「生き地獄」と指摘。新型コロナなどでシリアへの国際社会の関心が薄れていることに危機感を表明した。

 さらに、人道支援の重要性を強調。「継続的で強固な対話を通じて、国際社会にある分断を橋渡しすることが必要だ」と、国際社会の和平プロセスへの協力を呼び掛けた。

 内戦で40万人以上が死亡し、そのうち民間人の死者は10万人を超えるとされている。実際の数はもっと多いというのが大方の見方だ。また、約2000万人の人口のうち半数以上が国内外で難民化し、トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、欧州などに流出した。

 国際社会は終結実現を

 シリア内戦は、国際社会による取り組みがなければ終結させられないことは明らかだ。各国が利害を超えて平和を実現すべき時だ。