英安保見直し、歓迎したいインド太平洋重視


 英国政府は「安保・国防・外交政策統合レビュー(見直し)」を発表し、欧州連合(EU)離脱後の安全保障や外交、貿易においてアジア諸国との関係を強化するため、インド太平洋地域を重視した中長期計画を打ち出した。中国の覇権主義的な影響拡大を警戒する諸国との国際的な連携をさらに強めるものであり、歓迎したい。

 「世界の地政学的中心」

 英国は保守党政権の下でEU離脱交渉が迷走した一方で、離脱後に低下しかねない国際社会への影響力を保ち、経済成長を進めていくため、新たな安保・外交政策の構築が課題になっていた。レビューでは、英国経済に極めて重要な地域として世界の人口の半数、総生産の40%を占めるインド太平洋地域のアジア圏を「世界の地政学的中心」として注目している。

 東西冷戦終結後の欧州統合の流れの中に埋没した英国の地位を大きく見直したもので、世界のリーダーとして「民主主義が反映する国際秩序の擁護者」の役割を担う決意が示されたと言えよう。米国と欧州との橋渡しとなる伝統的な関係を守る一方、アジア地域への関与を強めて国際問題の解決に取り組む役割に期待したい。

 インド太平洋地域では、シルクロード経済圏構想「一帯一路」を進める中国の借金漬け外交で、スリランカのハンバントタ港が中国側に99年間借り上げられるなど「債務の罠(わな)」が問題になった。また、中国による東・南シナ海での一方的な領有権主張と実効支配の試み、香港への強権統治、民族浄化の疑いがあるウイグル族弾圧などさまざまな形で行われる力による現状変更を断じて許してはならない。

 レビューでは、今後10年間の英国の繁栄のためにますます重要性が高まる同地域が「国際法、ルール、規範をめぐる交渉の焦点」になっていると、中国を念頭に指摘。インド、日本を重点に、韓国、インドネシア、ベトナム、マレーシア、シンガポールなどとの関係を強固にして連携する方向だ。

 また、軍事力の向上も打ち出しており、特にサイバー、宇宙、核戦力を増強し、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を含む空母打撃群の地中海、インド洋、太平洋への派遣計画と米海軍との共同訓練で安保上の存在感をアピールしている。すでに公海の南シナ海でフリゲート艦による「航行の自由作戦」を米軍などと展開しているが、中国の力による現状変更を抑止するには多国間の協同が必要だ。

 クアッド(日米豪印)首脳によるテレビ会議でも、中国の「海洋秩序への挑戦に対応」することや「インド太平洋構想への結束」が共同声明に盛り込まれ、日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)でも中国海警局の武器使用を盛り込んだ海警法に「深刻な懸念」が示されている。

 クアッドに英仏独加えよ

 自由で開かれたインド太平洋を守り、発展させるには多くの国々の連携が中国に対する牽制(けんせい)になる。クアッドに英国、さらにフランス、ドイツなど欧州諸国を加え、同地域の安全と安定をもたらす国際秩序を作り上げていくべきだ。