イ・UAE国交 中東安定への一歩となるか
イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化で合意した。いがみ合ってきたアラブ諸国とイスラエルとの間の関係に風穴を開ける「歴史的合意」(トランプ米大統領)であり、中東安定化への一歩となることを期待したい。
イランへの包囲網構築
イスラエルとアラブ諸国との間の正常化はエジプト、ヨルダンに続く3カ国目。ペルシャ湾岸のアラブ諸国としては初めてとなる。
アラブ諸国とイスラエルとの間で、関係改善の障害となってきたのはパレスチナ問題だ。
パレスチナを支援するアラブ諸国は、イスラエルとの関係改善にはパレスチナ問題の解決が先との立場を取ってきた。サウジが2002年、イスラエルの占領地からの撤退、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の独立を求める「アラブ和平イニシアチブ」を提唱したのもその流れだ。
ところが、イスラエル・UAE国交樹立は、その前提を覆すもの。「アラブの大義」より実利を取るアラブ諸国のここ数十年の行動の表れだ。さらに、このところ存在感を増すイランへの包囲網構築という意味合いもある。それだけに、パレスチナ自治政府にははしごを外された感が強い。自治政府報道官は直ちに「裏切り」と強く反発した。
今後、バーレーン、オマーン、スーダン、モロッコなどが追随するとの見方もすでに出ているが、大国サウジは、今のところ静観の構えだ。
UAEアブダビ首長国のムハンマド皇太子は「合意を交わしたのは、イスラエルがこれ以上パレスチナ領を併合するのを止めるため」だとしている。
米国は1月、中東和平案を発表した。イスラエルによるヨルダン川西岸の一部併合、大部分のユダヤ人入植地の存続を認めるものだ。これを受けてイスラエル政府は、これまでタブー視されてきた西岸の一部併合への動きを強めていた。トランプ政権の後押しに右派のネタニヤフ政権が意を強くしたからだ。
UAEとの国交正常化に向け、ネタニヤフ首相は併合を「延期」するとしている。今後強行するようなことがあれば、合意そのものが揺らぐ可能性も出てこよう。
合意は数週間以内に調印されるとみられており、すでに国交正常化への準備が進行している。発表の3日後には両国間の電話回線が開通。UAEの国営通信WAMによると、イスラエルの対外情報機関モサドのコーヘン長官が「安全保障面での協力」について協議するためUAEを訪問した。
トランプ氏は早速、ステルス戦闘機F35の売却にも意欲を示した。これまでUAEが導入を求めてきた最新兵器だ。
一方、合意にはトルコが強く反発し、イランとイスラエル・アラブ諸国との対立の先鋭化も予想される。また、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」案が反故にされるようなこともあってはならない。
慎重な対応が必要だ
合意はかえって新たな亀裂、分断を生む可能性もある。地域の安定化への弾みとなるよう、慎重な対応が必要だ。