重油流出事故 汚染拡大防止へ十分な支援を


 インド洋の島国モーリシャス沖で、商船三井が運航を手配した貨物船から大量の重油が流出し、深刻な環境汚染を引き起こしている。

 汚染拡大防止に向け、事故の当事者が真摯(しんし)に対応するとともに日本政府も十分な支援を行う必要がある。

 自然環境に深刻な打撃

 事故を起こしたのは、長鋪汽船(岡山県笠岡市)が所有する全長約300㍍の大型ばら積み船「WAKASHIO」。現地時間7月25日に座礁して容量1180㌧の燃料タンクが損傷し、同8月6日に重油の流出が始まった。既に1000㌧以上が流出したという。

 モーリシャスは、アフリカ大陸東岸沖の島国マダガスカルから、さらに東へ900㌔の海上に位置する島国。事故現場の周辺はサンゴ礁が広がる海で野鳥の保護区にも近い。流出した重油の一部は海岸に漂着し、観光を主要産業とするモーリシャスの自然環境への深刻な打撃が懸念される。

 商船三井は事故対応のため現地に社員を派遣。新型コロナウイルス感染の有無を調べるPCR検査を経て、座礁現場での活動を開始する。人員の追加派遣や物資の輸送についても検討している。

 政府も海上保安庁の担当者や環境、外務両省の職員らを送った。小泉進次郎環境相は政務三役の派遣も考慮している。迅速で十分な支援によって、貴重な生態系への影響を最小限に抑えるべきだ。

 事故原因の究明も進めなければならない。地元警察は航行上の安全義務に違反した疑いでインド人船長とスリランカ人船員1人を逮捕した。複数の船員は調べに対し、事故前に誕生日パーティーを開いていたと供述。無線通信Wi―Fi(ワイファイ)に接続するため、島に近づいた可能性もあるという。

 モーリシャス政府は長鋪汽船に損害賠償を請求する方針だ。海難事故に関する責任を定めた船主責任制限条約とバンカー条約では、船主に賠償責任保険への加入を求める一方、賠償額に上限を設定。両条約に基づく損害賠償額は20億円程度が上限となるとみられている。

 ただ、船主側に重大な過失などがあれば上限を超える請求が認められることもあるという。今後は、漁業・観光関係者らの損害額に加え、野生生物などの被害についてどこまで責任を問われるかも焦点となる。長鋪汽船はもちろん、商船三井も誠実な対応が求められる。

 かつて日本周辺でも、船舶事故による深刻な海洋汚染が発生したことがある。1997年1月、ロシア船籍タンカー「ナホトカ号」が島根県沖を航行中に破断し、船首部分が流されて福井県沖で座礁した。この事故で重油6200㌧が流出し、日本海側の海岸に広範囲に漂着して大きな被害を出した。

 再発防止を徹底せよ

 事故では延べ約30万人のボランティアが回収作業に従事し、福井県では作業の終息宣言まで約4カ月かかった。

 被害請求総額は約350億円に上ったという。関係者は事故の再発防止を徹底しなければならない。