新中東和平案 共存へ実現可能な処方箋示せ


 暗礁に乗り上げたままのイスラエルとパレスチナの関係に一石を投じることになるか。

 トランプ米政権の新中東和平案が公表された。昨年6月の経済部門に続く第2弾で、安全保障、入植地、境界線など政治面に重点を置いた内容だ。

 パレスチナは強く反発

 トランプ大統領の娘婿のクシュナー上級顧問が中心になってまとめ上げた。これまで何度も公表が計画されていたが、流動的なイスラエル政局などに阻まれ、延期されていた。

 「繁栄へのプラン――パレスチナとイスラエルの人々の生活を向上させるためのビジョン」と題され、トランプ政権らしく経済重視を感じさせるタイトルとなっている。内容も第1弾と同様、イスラエル寄り。再選を目指すトランプ氏の支持基盤、キリスト教福音派を意識したものだ。

 パレスチナ自治政府は、昨年6月と同様、受け入れを拒否。トランプ氏の「世紀のディール(取引)」に引っ掛けて「世紀の侮辱」と強く反発している。

 イスラエルとの和平条約を結ぶエジプト、親米のサウジアラビアなどペルシャ湾岸アラブ諸国は「米国の努力を評価する」と抑制的ながら一応の歓迎の姿勢を示した。

 行き詰まっているパレスチナ問題を解決したい思いはアラブ諸国も同じ。トランプ政権への配慮もあろうが、「和平へのスタート地点」となればという期待がにじむ。一方で、パレスチナ人の権利擁護の姿勢を示す配慮も見せた。

 トランプ政権は就任後、エルサレムをイスラエルの首都に認定。大使館をエルサレムに移転するなど、一貫して親イスラエルの姿勢を取ってきた。和平案の内容も、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を存続させ、エルサレムは分割しない、難民のイスラエルへの帰還権を認めないなどイスラエル寄りだ。

 パレスチナの独立を条件付きで認める一方、ヨルダンとの国境沿いのヨルダン渓谷はイスラエル領とし、パレスチナの非武装を明確にしている。入植地を存続させるため、エジプト国境沿いの土地をパレスチナに譲渡するなど一応の配慮を示した。

 パレスチナ和平はこれまで、1967年の第3次中東戦争までの境界線「グリーンライン」を国境線とする「2国家共存」をもとに進められてきた。国際法違反とされる入植地の存続を認めたことで、当初の2国家共存は困難になる。

 国連のグテレス事務総長は声明で、2国家共存に基づく和平実現へ「国連はパレスチナとイスラエルを支援し続ける」と表明。和平案を受け入れないことを明確にした。

 和平交渉は2014年以降実施されていない。早期の交渉の再開が望まれるものの、和平案はパレスチナにとって受け入れられるものではなく、交渉再開は望めない。

 主権確立や過激派根絶を

 和平に必要なものは、パレスチナの主権の確立と経済的な自立、ハマスなどイスラム過激派の根絶だろう。トランプ政権が和平の仲介人を目指すのであれば、これらの実現への処方箋を示すべきだ。