トランプ氏無罪へ、国民に疑念を抱かせるな


 トランプ米大統領の罷免を争う議会上院の弾劾裁判は、野党民主党が求めていたボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)らの証人尋問について採決し、賛成49、反対51の反対多数で否決した。

 弾劾裁判は実質審理を終え、2月5日にトランプ氏の無罪評決が下される見通しだ。

 大統領選念頭に訴追

 採決を前にして、ボルトン氏が政権の外交・安保政策の司令塔だっただけに、トランプ氏の不正疑惑が深まりかねないとする報道もあった。

 米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏が民主党に不利な情報をウクライナ政府から引き出すためボルトン氏に協力を求めていたと報じた。ホワイトハウスは同紙の報道を否定したが、ボルトン氏が近く出版予定の著作の草稿に盛り込まれているという。

 弾劾裁判はトランプ氏の権力の乱用と議会調査の妨害が訴因となった。訴追状によれば、トランプ氏は昨年7月25日、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話首脳会談で、民主党のバイデン前副大統領とその息子をめぐる疑惑調査を要請。調査開始の公表が、ウクライナ側が求めていた軍事支援の凍結解除とホワイトハウスでの首脳会談実現の交換条件だったという。

 民主党は一連の要請について、トランプ氏が再選を目指す2020年大統領選で有利になるため、民主党有力候補のバイデン氏に政治的打撃を与えるのが目的だったと断定。さらに、トランプ氏が下院の弾劾調査に協力しないよう関係機関に命じたことが、憲法に基づく下院の権限行使の妨害に当たると主張している。

 トランプ氏の罷免には上院議員の3分の2以上の賛成が必要で、与党共和党が多数派を握る同院で無罪評決が下されるのは確実とみられている。たとえそうだとしても、トランプ氏は国民に疑念を抱かせ続けるようであってはならない。

 トランプ氏は自身の納税記録提出の是非をめぐる訴訟も抱えている。トランプ氏の弁護士は過去8年分の納税記録を検察当局に提出するよう命じた地裁と控訴裁の判決を不服として最高裁に上告した。

 カーター大統領以来、歴代大統領は就任前あるいは就任後に自主的に納税記録を公開している。トランプ氏は就任から3年以上経過したが、公開していない。これでは脱税疑惑を払拭(ふっしょく)できないのではないか。

 一方、民主党指導部はトランプ氏の無罪は織り込み済みで、大統領選に向けトランプ氏にマイナスイメージを与えるため、多数を占める下院で弾劾訴追に踏み切ったと言っていい。もっとも、共和党はトランプ氏支持で結束が進んでおり、民主党の狙いが奏功するかは不透明だ。

 レガシーづくりに精力を

 トランプ氏は第17代ジョンソン大統領、第42代クリントン大統領に次ぐ米史上3人目の弾劾訴追された大統領として名を残すこととなった。

 これを不名誉な出来事と謙虚に受け止め、外交、内政あらゆる面でレガシー(政治的遺産)づくりに精力を傾注しなければならない。