「親日」論戦エスカレート、レッテル貼りに保守派警戒
日韓関係悪化に伴い、韓国内では今後も日本に強硬路線で対抗すべきだという政権・与党と、政権側にも問題があるとして日本の立場に一定の理解を示す保守派が対立し、双方が激しい論戦を繰り広げている。その際、目立つのは政策論争ではなく、「親日」か否かの言い争いだ。
文大統領の側近の一人、青瓦台(大統領府)の曺国・民情首席秘書官は最近、自身のフェイスブックで、日本企業への賠償命令を確定させた大法院(最高裁)の元徴用工判決を「否定、非難、歪曲(わいきょく)、罵倒(ばとう)するのは日本政府の立場」であり、「それと同じ主張をする韓国人は当然、親日派と呼ぶべきだ」と述べた。
これは保守系で最大手紙の朝鮮日報への反論だ。同紙は1965年の日韓請求権協定により元徴用工たちの請求権は消滅したという判断に韓国政府も同意したことを裏付ける当時の民官合同委員会の内容を報じていた。
この発言を受け同紙は「物事がうまく解決しないと親日というレッテル貼りから始めるのが文政権の癖」「外敵(日本)を前にしてすっかり参り、国内では世論を分裂させて鬱憤(うっぷん)晴らしをしている」などと再反論した。
また与党ナンバー2の李仁栄院内代表は最大野党の自由韓国党に対し「韓日戦が繰り広げられているというのに後ろからタックルを繰り返すことに対し厳重に警告する」とした上で、「味方選手を非難し、日本選手の肩を持つならそれこそ新親日だ」と批判。すると、今度は自由韓国党が「青瓦台と少しでも考えが違えば親日派呼ばわりするのが正しい態度と言えるのか」(黄教安代表)と応酬した。
「親日」論戦がエスカレートする背景には、日韓の経済協力や民間交流、北朝鮮の脅威に対抗する安保連携などで日本は重要だと正論を吐きたくても、ひとたび「親日派」と見なされれば社会的に抹殺されるのではないかという保守派の恐れがある。
「日本の韓国併合に賛成し、植民地支配36年間に高い地位を与えられ、朝鮮人を弾圧し、財産を築こうとした人で、解放後も韓国社会の主流になった人たちが正しく清算されず、批判の矢面に立たされてきた」(政権ブレーン)
文政権が抱く、いわゆる左翼史観に基づく「親日派」の定義だ。
文政権はこれを巧みに政治利用している。国政介入事件で弾劾に追い込まれた政敵の朴槿恵前大統領をはじめ国内保守派を「積弊」と称し、相次いで司法の裁きを受けさせてきたが、朴氏の父、朴正煕元大統領が親日家だったことや歴代保守政権のルーツが「親日派」にあることから「親日派=積弊」というイメージづくりにほぼ成功したと言える。
このため保守派としては「親日」レッテルを貼られることには過敏にならざるを得ない。
先週、各種世論調査で文大統領の支持率は前週より軒並み数ポイント上昇し、調査によっては50%を超え8カ月ぶり高水準となった。支持する理由として最も多かったのは「外交」。韓国メディアはこぞって「対日強硬姿勢が評価された」と報じた。
実は「文政権にとっては外交より国内政治の方がはるかに大事」(政府系シンクタンク幹部)。日韓関係を犠牲にしても国内支持基盤を固めたいのが本音ではないのか。
やはり日本には強気一辺倒で押し通すのが得策だ――。文大統領にそんな自信を抱かせてしまったとすれば、日韓関係修復はさらに遠のくほかない。
(ソウル・上田勇実)











