文在寅政権中枢に金日成信奉者

何処へゆく韓国 「親北反日」の迷路(2)

元学生運動家 聞く耳持たず

 「顔の雰囲気と言い、強い口調と言い、君はあの林秀卿によく似ている」

21世紀韓国の希望386リーダー

1999年に発刊された『21世紀韓国の希望386リーダー』(図書館貸出本)

 1988年、韓国南西部の全羅道にある大学に入学した朴鍾愛さんは学生運動の先輩たちからよくこう言われた。当時、韓国では前年に民主化宣言した後も軍事独裁反対デモが続き、その中心が北朝鮮の金日成主席を信奉する主体思想派が率いる全国大学生代表者協議会(全大協)に移っていた。全大協は89年に女子大生、林秀卿氏を北朝鮮に密入国させ金主席に面会させた。林氏を密入国させたのは当時の全大協3代目議長で後に文在寅政権の大統領秘書室長を務めた任鍾晳氏である。

 新入生の朴さんを迎えたのは連日のデモだった。

 「社会や政界の不条理を正さないといけない。理想世界を創るには思想伝播(でんぱ)が必要」「金日成主席は偉大な指導者だ」

 学生会長が総長より力をもって大学を動かしていた時代。教室に設けられた「審判台」に教授たちを呼び付けては「聴聞会」を開いた。授業は最初の1カ月も続かず、学生たちはキャンパスでデモに明け暮れた。校門の外で警戒していた軍隊に火炎瓶を投げると、向こうは催涙弾をまいてきた。

 集会で先輩たちの話に疑問を抱いたある新入生が質問や反論をすると、「あなたが間違っている」「そういうふうに考えては駄目だ」と一蹴された。朴さんは「自分の考えを押し通し、相手の意見には全く耳を貸さない人たちだった」と振り返る。

 60年代生まれで80年代に学生運動をし、この言葉が生まれた当時30代だった人たちは「386世代」と称されるようになった。彼ら1000人のその後を追った本が一昨年の文政権発足直後、386世代躍進の予言書としてメディアに取り上げられ話題になった。現在は休刊中の左派系月刊誌『マル』99年5月号の特別付録『21世紀韓国の希望386リーダー』だ。巻頭言にこうある。

 「80年代を愛も名誉も名前も残さず生きた人たちが社会の至る所で泉となり、流れ出した川筋を追ってみると巨大な川になっていた。(中略)私たちは知っている。音もなく気高く流れる漢江に似た386世代がいることを」

 同書は全大協初代議長だった李仁栄氏について「在野の伝統と386の創造性を結び付けるため92年から97年まで全大協同友会会長として全大協世代の団結に情熱を傾けた」と紹介している。李氏は現在、野党から「融通の利かない根本主義者」と言われながらも与党・共に民主党のナンバー2に登り詰めている。

 学生運動から30年を経て386世代は権力を掌握した。文大統領を支える青瓦台ではついに「60人以上の386世代が秘書官などとして迎えられた」(韓国保守系メディア)。

 北朝鮮の教えに影響を受けた彼らにとって日本は「過去の歴史に対する謝罪と賠償など清算してもらうべき相手」(386世代の元活動家)だ。日韓慰安婦合意に基づき設立された韓国の「和解・癒やし財団」の解散、65年の日韓請求権協定を無視した元徴用工判決への事実上の無対応なども日韓協力という現実課題より「反日」理念を優先させた結果だ。

 日本が半導体材料の対韓輸出管理の強化を発表した翌日、ある元駐日韓国大使は「日韓関係は重要だから改善しないと駄目だとあれほど言ったのに。彼ら(文政権)の一番の問題はアドバイスを聞こうとしないことだ」と周囲に漏らした。

(ソウル・上田勇実)