分水嶺の来年総選挙、朴氏釈放に保守分裂の思惑
ソウル中心部の光化門広場。左派市政の行政代執行により、ここで幾つもの大型テントの設置と撤去を繰り返しながら朴槿恵前大統領の無罪釈放を訴えている政党がある。ウリ共和党。国政介入事件で有罪判決を受け収監中の朴氏にもともと近かった国会議員がわずか1人だけ所属するミニ政党だ。朴氏弾劾直後から無罪釈放を求める署名活動を始め、現在、賛同者は160万人近くまで達した。
「韓国は社会主義、共産主義と手を組むことはできない。韓米日同盟を推進すべきだ」(同党の崔珉瑄副報道官)
保守派の中でも最も右寄りで、特に「親北反日」色を強める文在寅政権の外交・安保政策に手厳しい。
同党は6月、前身の愛国党から改名した。収監中の朴氏が同党関係者と面談した際に党名に父、朴正煕元大統領時代の与党名「共和党」(正式名称は民主共和党)を入れ、釈放後に自分の政治活動の母体を準備してほしいと要請したとの噂(うわさ)が流れた。
その朴氏釈放が全く別の思惑から、にわかに現実味を帯びている。文政権が来年4月の総選挙に向け保守派を分裂させ、与党勝利を確実なものにしようとしているとの見方が広がったためだ。
「いまだに水面下では親朴派、非朴派に分かれている保守系野党の自由韓国党や正しい未来党の中から、文政権への報復を考える親朴派が朴氏を担ぎ上げて再結集すれば保守派は真っ二つだ。文政権がその可能性大と判断すれば朴氏は釈放されるだろう」
政府系シンクタンクの元幹部はこう指摘する。
文政権が朴氏釈放を検討する理由は他にもある。南北融和ムードの冷え込みだ。
「国民は金正恩氏との首脳会談に見飽きた面もある。会って何が起きるのか、何が変わるのかを期待している。一時的に支持率がアップしてもすぐ落ちてしまうため、首脳会談を支持率アップに利用できなくなっている」(韓国大手紙論説委員)
「北風」だけで総選挙を乗り切れる状況ではない。そこで朴氏釈放カードをちらつかせ始めたというわけだ。
自由韓国党の「敵失」で与党有利を予想する向きもある。自分に近い人材を中心に公認選びを続けて国民を失望させてきた同党が縁故重視から脱却できるかがカギを握るといわれる。だが、「現執行部にそれだけのリーダーシップは不在」(元韓国政府高官)という見方は少なくない。
一方、南北融和ムードの中で眠りから覚めるように動きだした政党もある。北朝鮮から思想的影響を受ける所属議員が内乱陰謀罪で有罪判決を受け、憲法裁判所から解体命令を受けた急進左派の統合進歩党の流れを汲(く)む民衆党だ。
同党の李恩恵報道官は「朝鮮半島はわが民族同士の力で統一しなければならず、そのために南北合意をきちんと履行し自由韓国党を壊滅させられるよう国会議席を伸ばしたい」とした上で「統合進歩党の解体で離散した元議員たちは今、来年の総選挙に向け準備中だ」と明らかにした。
今後、与党以上に「親北」である同党の動向にも保守派は神経を尖(とが)らせそうだ。
文政権は総選挙までの9カ月間に朴氏釈放や金正恩氏ソウル訪問などのビッグショーを仕掛け勝負に出るかもしれない。その勝敗はそれからさらに11カ月後に行われる大統領選の行方に決定的な影響を与えるとみられる。それは韓国が「親北反日」を続けるか否かの分水嶺にもなるだろう。
(ソウル・上田勇実)
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