韓国学生運動、軌道逸脱のDNA


韓国紙セゲイルボ

金正恩偶像化する「大進連」

 韓国学生運動の転換点は1996年、韓国大学総学生会連合(韓総連)の延世大占拠、いわゆる“韓総連事態”だ。1980~90年代を風靡(ふうび)した学生運動はこの事件を契機に孤立と衰退の道をたどった。

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ソウルの光化門広場で行われたろうそくデモ2016年11月19日(撮影・岸元玲七)

 8月13日、韓総連所属の学生2万人が延世大に集結し「汎青学連統一大祝典」を行った。「在韓米軍撤収」「連邦制統一」「朝米平和協定締結」を声高に叫んだ。北朝鮮の報道官が言いそうな主張だ。国民の視線が冷たいのは当然の結果だ。

 総合館などで5日間続いた占拠は20日未明、ヘリコプターを動員した警察の鎮圧作戦で幕を下ろした。対テロ戦を彷彿させる攻防戦だった。あちこちが燃え、ガラス窓が壊れた総合館は廃虚になった。5848人が連行され、462人が拘束、3341人が在宅起訴された。警察も被害が大きく900人が負傷し、警官1人が学生の投石で死亡した。彼も1学年を終えて入隊した20歳の大学生だった。

 鎮圧する警察と共に占拠された建物に入った筆者は衝撃的な場面を目撃した。金日成・金正日父子を称賛する文句が講義室の多くの黒板に書かれていた。「何が学生たちの常識と理性をマヒさせたのだろうか」。学生運動は常軌を逸しているとの思いで心が重かった。

 韓総連は全国大学生代表者協議会(全大協)の後身だ。金日成の主体思想を信奉する主思派の遊び場だった。元幹部は、「韓総連中央の幹部たちは夜には金日成回顧録を読み、金日成の抗日武装闘争ビデオを見ながら感服し拍手した」と告白する。韓総連は韓国に北朝鮮式の金日成主義国家を建てようとした。98年に大法院(最高裁)から「利敵団体」との判決を受けたのは自業自得だった。

 全大協と韓総連のDNAは韓国大学生進歩連合(大進連)に受け継がれる。大進連はソウルのど真中で「金正恩」を連呼し「万歳」を叫んだ。「統一を妨害する在韓米軍は直ちに撤収せよ」と主張し、米大使館に突入しようとして警察に捕まったが、在韓米軍のせいで北朝鮮の南侵統一が難しいから出て行けというのか。

 圧巻は金正恩委員長研究会を立ち上げたことだ。大進連は会の趣旨を「北朝鮮をよく知ってこそ統一を早めることができ、金委員長の研究が活発になれば、北朝鮮に対する正確な理解を持つのに役立つ」と言った。だが彼らは研究発表大会で金正恩を「民族を一つにする同胞愛を発揮し、愛と信頼の政治を行っている」と褒めて、「世界最強の米国を相手に、大胆で異次元の外交実力」を持つと称(たた)えた。

 大進連が強調した北朝鮮に対する正確な理解と客観的な視線はどこにあるのか。“金正恩偶像化の会”といわれる所以(ゆえん)だ。世界で唯一、職業選択と居住移転・通行の自由がない国が北朝鮮だ。出身成分に従って身分階級を分け、カースト制の残るインド以上の差別をしている。8万~12万人の住民が収容所で動物のような扱いを受けている。

 北朝鮮のこのような実状を無視して、金正恩を持ち上げるのは「進歩」の価値にも合わない。大進連は進歩という単語を口にするのが恥ずかしくないのか。韓総連の前轍を踏まないことを願いたい。

(金煥基(キムファンギ)論説委員、6月21日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

学生運動の背後に主体思想

 わが国の学生運動は70年代をピークに今では見る影もない。過激な革命思想に走り、武装闘争と内ゲバの果てに自滅していった。最近では政党がお膳立てをし、メディアにおだてられて国会前に立ったものの、いまだにこじらせている老活動家たちの指導なしでは“街頭闘争”も満足にできない始末だ。

 だが、韓国では、学生運動はいまだに現役である。李承晩政権を倒した1960年の四・一九学生運動から始まって、80年の光州事件、87年の民主化デモ、2016年の朴槿恵大統領弾劾など、韓国政治が大きく変わる時、主役は大学生だった。

 当時は独裁に反対し民主化を求めた運動だと思われていたが、分かってみれば、ほとんどは共産主義勢力が背後で操っていた政府転覆革命運動だったのである。文在寅政権となって、偽装の面をかなぐり捨てて、過去の「闘争」の正体を明らかにしている。曰く、「四月革命」「5・18民主化運動」「6月民主闘争」「ろうそく革命」などと再定義されるといった具合だ。

 韓国には学生運動が政治を変えてきたという自負と誇りがある。それが北の手垢にまみれ、韓国を「赤化統一」しようとする勢力に牛耳られてきたことを指摘せざるを得ないところに論説委員の無念さが滲(にじ)んでいる。

(岩崎 哲)