無人機用いたミサイル防衛構想
米ハドソン研究所上級研究員 アーサー・ハーマン氏に聞く
北朝鮮の弾道ミサイルを無人航空機で迎撃する構想のメリットや今後の見通しなどについて、米シンクタンク「ハドソン研究所」のアーサー・ハーマン上級研究員に聞いた。
(聞き手=編集委員・早川俊行)
日米共同開発なら1年で実現
利点多い「ブースト段階」の迎撃
北朝鮮の弾道ミサイルを発射直後の「ブースト段階」で破壊するメリットとは。

アーサー・ハーマン氏 米ジョンズ・ホプキンス大で博士号取得。アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)客員研究員などを経て、現在、ハドソン研究所上級研究員。昨年、歴史家として8冊目の著作となるダグラス・マッカーサー元帥の伝記を上梓。
大型多段式ロケットを大気圏外に打ち上げるには、高推力ブースター・エンジンを必要とする。ブースト段階は最も赤熱する段階であるため、長距離赤外線センサーで探知・特定するのが極めて容易だ。また、標的に向かって加速していく「ターミナル段階」と違い、速度が最も遅い段階でもある。さらに、ブースト段階は迎撃を回避する対抗手段を講ずることができない。
日本が既に保有している地上・海上配備型の迎撃ミサイルシステムでは、残念ながらブースト段階での迎撃はできない。発射をすぐに探知できないからだ。日本が多額の費用をかけて導入を検討している陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」も同様だ。
米ミサイル防衛局は、高出力レーザーを用いたブースト段階の迎撃システムを検討しているが、実用化には少なくとも5年以上かかるというのが一致した見方だ。
より効果的な解決策は、無人航空機を用いることだ。北朝鮮のミサイルをブースト段階で探知・破壊できる2段式の迎撃ミサイルを4発搭載できる米国製の無人機が既に存在する。通常の戦闘機にこのタイプのミサイルを積んで行われたブースト段階の迎撃実験は成功している。
北朝鮮沿岸から数百マイル離れた高度4万5000~5万5000フィート(約13・7~16・8キロ)の国際空域で、このミサイルを搭載した無人機にローテーションで警戒監視させることは、ミサイル攻撃に対する死活的な最前線の防御層になる。迎撃したミサイルの破片は、確実に北朝鮮国内か日本海に落ちる。
この構想の実現にかかる期間と費用は。
関連する技術はすべて実験済みであり、元米弾道ミサイル防衛機構科学技術部長レオナード・キャブニー博士の当初の見積もりでは、2年で実用試作機を開発できる。だが、米国と日本が急ピッチで共同開発すれば、スケジュールを1年以下に短縮することも可能だ。
実用試作機にかかる費用はわずか2500万ドル(約28億円)だ。北朝鮮のミサイル発射施設を24時間体制で監視できるように無人機を12機配備しても、その費用は1基10億ドルかかる最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」のごく一部だ。
この構想は米国でどの程度進展しているのか。
トランプ政権から注目され始めたところだ。米ミサイル防衛局はレーザーに執着しているが、議会からは開発期間がはるかに短く済む通常ミサイルを使ったオプションを検討するよう圧力が強まってる。
通常ミサイルとレーザー、どちらが優れているかという問題ではない。レーザーシステムが完全に機能し、配備できるようになるまでのギャップを、通常ミサイルが埋めることができる。
北朝鮮が開発を進める潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)への対応は可能か。
可能だ。ブースト段階であることがカギだ。既存のシステムではブースト段階では迎撃できない。このことは、SLBMや上空100キロ以上で爆発させる電磁パルス(EMP)攻撃のリスクを高めている。EMP攻撃は電力網やインフラに壊滅的影響をもたらす。
北朝鮮上空でミサイルを迎撃すれば、全面戦争に発展する恐れはないか。
まず初めに、米国は北朝鮮によるいかなるミサイル発射も米国と同盟国に対する直接的脅威であり、撃ち落とすと宣言する。無人機を用いたブースト段階の迎撃システムによって、米国はこの政策を実行に移し、金正恩氏がさらなる発射実験でミサイル開発を完成させるのを阻止することが可能になる。ミサイル発射施設への空爆などその他の軍事オプションと比べれば、戦争に発展する可能性ははるかに低い。
北朝鮮が核ミサイルを保有するのを黙認するか、朝鮮半島を破滅的な戦争に陥れる軍事行動に踏み切るか、選択肢は急速に狭まってきている。無人機と通常ミサイルによるブースト段階の迎撃システムは、安全な中間策だ。
このシステムは、冷戦時代の戦略防衛構想(SDI)のような情勢を一変させる「ゲームチェンジャー」となる可能性はあるか。
ある。その影響は北朝鮮だけにとどまらない。日米による共同プロジェクトは、レーザーによるブースト段階の迎撃システム開発も飛躍的に発展させ、またアジア太平洋地域全体の平和とパワーバランスを維持する技術革新をもたらす可能性がある。北朝鮮を抑止して21世紀の新たな平和の希望をもたらすのか、抑止に失敗して大惨事を招くのか。われわれは歴史の岐路に立っている。