100年前と似た「終末」

インタビューfocus

韓国情勢 混迷の深層

拓殖大学教授 呉善花氏

 昨年末、釜山日本総領事館前に少女像が設置されたことで再び関係が急速に冷え込む日本と韓国。国政介入事件で浮き彫りになった朴槿恵政権の問題点や次期大統領選が迫る韓国の今後、さらに日韓関係への提言などについて韓国ウオッチャーの一人、呉善花・拓殖大学教授に忌憚(きたん)なく語ってもらった。(聞き手=編集委員・上田勇実)

今回の崔順実被告らによる国政介入事件では反政府デモが爆発的に大きくなった。理由は何か。

 根本には貧富の格差が激しくなる一方の資本主義に対する反発がある。一部の力ある人たちがそうした資本主義の恩恵を受け、残りの大半はもっと儒教社会で家族や親戚、仲間に頼って生きていきたいと思っている。ところが、最近は個人主義になって家族、親戚、友人も場合によっては競争相手になってしまう。お互い信じられず、親しくなったと思ったらおカネが絡んでくる。もうこんな社会は嫌だと思っている。

呉善花

 オ・ソンファ 1956年韓国済州島生まれ。大邱保健福祉大学卒。83年来日、東京外国語大学院生時代に日本で働く韓国人女性を題材にした『スカートの風』がベストセラーに。現在は日本に帰化。韓国への批判的な論評活動を理由に韓国入国を拒否されたことがある。著書多数。

 今回のデモは貧富の格差や権力を利用して私腹を肥やす崔順実被告のような人たちに対する不満が爆発したもの。資本主義への反発は社会主義的な要素も取り入れながら、また民族の自尊ということも取り戻すべきではないかという機運が高まり、北朝鮮的なものも少し導入しようという運動が起こってくるかもしれない。

 50歳以下の国民は既存の韓国における資本主義にうんざりしている。次に誰が大統領になってもこうした流れを止めることはできないのではないだろうか。

国政介入事件でも見られるように韓国社会は特定の人につながったり、地縁や血縁を重視し過ぎると言われ、問題視する人も多い。このような傾向はそもそも李氏朝鮮時代の精神文化に根差したものだとする見方もある。

 もちろんその時代の精神文化の延長だ。約100年前、李朝末期に国は乱れ、世界情勢も激動していった。王の権威が失われていった時に正妃だった閔妃(明成皇后)が権力を握った。

 閔妃は義父の興宣大院君とすさまじい権力闘争を繰り広げるが、多額の国庫を投じて神を憑依(ひょうい)させてお告げをするシャーマンを宮廷に住まわせた。周囲の側近たちは閔妃を守る守護神のようなシャーマンを毎晩お参りするようになっていったが、財政が悪化し農民らの反発を食らうことになる。

 その時、農民たちは農機具を持って宮廷に押し掛けたが、ちょうど今回の反朴政権デモの一環で地方の農民たちがトラクターを運転して列を成して上京しようとする姿と似ている。

 その後、列強諸国が朝鮮半島に進出しようと試み、日韓併合へとつながっていくわけだが、青瓦台に出入りしていたという崔順実被告の影響を受けて混乱する今の韓国を見ていると、まさに閔妃の時代と同じように「国の終末」を感じさせる。

朴大統領は「不通」と呼ばれる疎通力不足を批判されることが多かったが、崔太敏・崔順実父娘との特別な関係も影を落としているのか。

>  朴大統領は側近とも距離を置き、決して心を許さないといわれる。結局、亡くなったお母さんの陸英修女史に会うには自分を通じなければならないという一種のシャーマニズムで崔父娘が朴氏に近づき、朴氏もそれを心の支えにしていたのだろう。そうでなければ朴氏が一国の大統領として持ち堪(こた)えるのは難しかっただろう。

韓国人はシャーマニズムの影響を受けやすいのか。

 韓国はシャーマニズムが根強い。男尊女卑の傾向がある儒教社会では公ではシャーマニズムの評価は低く、排除されるが、底辺にはすごく残っている。虐げられがちな女性にとっては救いだ。儒教は先祖を崇拝するもので、シャーマニズムは御先祖様の霊。どちらも根本は人間。先祖の誰かが今あの世に行けず困っているから慰める行事を行わないと、というのが韓国のシャーマニズムの基本になる。だからお母さんが夢に出てきたということがあっても誰もおかしく思わない。朴大統領のケースは決して特別なものではない。

文氏当選なら親北反日路線
未来志向へ違い知る努力を

国政介入事件ではサムスンなどの財閥企業まで寄付を強要されていた疑いが浮上している。

 崔順実被告は父、崔太敏氏の手腕をそのまま学んだようだ。1970年代、崔太敏氏は母を亡くして悲嘆に暮れる朴槿恵氏に巧みに近づき、青瓦台(大統領府)に頻繁に出入りするようになった。当時、韓国はまだ発展途上国で開発の余地はいくらでもあったが、各企業は窓口として権力に近かった崔氏に近づくことで利権を得ていった。崔氏は100社以上を動かしたと言われる。

 朴正煕大統領はそんな崔氏を排除しようとしたが、朴槿恵氏の力があったため崔氏の言う通りに企業も役所も動いてしまった。崔順実被告も父親のやり方を踏襲したようだ。

朴大統領に対する弾劾審理の行方次第では今年の大統領選が早まる可能性もある。

 今のところ支持率トップの文在寅氏が有利と言われるが、仮に文氏が大統領になったら北朝鮮寄りになっていくのは間違いない。朴正煕が作り上げた韓国の資本主義には若者たちを中心に反発もあり、完全に北朝鮮のようにはならなくても韓国と北朝鮮を調和したような変な国になる恐れがある。そしてこれを裏で支援するのが中国だ。

 李朝末期の閔妃が国を混乱させ、周辺の清やロシア、日本などを混乱させていったように今の朴槿恵大統領も米国、中国、日本を手こずらせている。文氏にとっては盧武鉉政権の政策を引き継ぎながら、当時失敗した経済政策をどうするかというのがテーマだと思う。

 親北朝鮮になった場合、「わが民族」という言葉が強調されるはずだ。今、世界は内向きになっており、米国もトランプ政権は「偉大なる米国」と盛んに言っている。韓国の場合も「偉大なる韓民族」が強調され、そうなればそれに敵対する勢力が日本だ。だから韓国の反日は強くなっていくだろう。

日韓「慰安婦」合意についてどう評価するか。

 私は合意当初から否定的だった。韓国野党陣営で盛んに主張しているように韓国が合意を白紙撤回したら国際的な恥をかくと日本はよく言うが、果たして国際社会はこの問題に関心を示すだろうか。もちろん米国の一部議員たちは日本の主張を支持するだろうが、合意を破棄しても韓国はあまり非難されないだろう。

 米国人の多くは慰安婦問題は日本が悪いと思っていて、それが根付いてしまっている。日韓合意は日本が反省したからだと思っている。そして韓国は慰安婦という言葉よりも「平和の少女像」という言葉を使い、世界平和のために奮闘しているというイメージがつくられている。

韓国は難しい局面に入っているようだが、北東アジアの安全保障などを考えた場合、日韓の連携は極めて重要だ。未来志向の日韓関係に向け何か提言を。

 あまり近づき過ぎず、適当な距離を置くことが必要ではないか。日本人と韓国人の考え方の違いがいかに大きいかということを知る努力をするしかない。日本的な発想や価値観だけで韓国を見ようとすると問題が生じてくるだろう。