存在感増す右派ルペン氏
先行き見えない仏次期大統領選
中道右派フィヨン氏に架空雇用疑惑
今春に大統領選を控えるフランスでは、昨年暮れの中道右派の予備選で正式統一候補に選ばれたフランソワ・フィヨン元仏首相の妻の架空雇用疑惑が持ち上がり、大統領選は混迷を深めている。左派・社会党は予備選で候補者を選んだものの大統領選の第2回投票に勝ち残る可能性は低く、最も安定した支持を得ているのが右派・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首という状況だ。パリ・安倍雅信)
フランスでは最大野党の中道右派・共和党(LR)が、11月末の予備選で選んだのはフランソワ・フィヨン氏(62)だった。低い支持率のオランド左派政権の影響で、左派の候補者が次期大統領に選ばれる可能性は低く、フィヨン氏が存在感を示していた。
過去にスキャンダルがないフィヨン氏だったが、1月に入り、妻のペネロプ夫人に架空雇用疑惑が浮上し、フランスの検察当局は1月25日に捜査に着手した。同疑惑は仏週刊紙カナール・アンシェネが報じたもので、フィヨン氏が下院議員時代、勤務実態がないにもかかわらず、ペネロプ夫人にスタッフとして給与を支払っていたというものだ。
その額は、8年間で約50万ユーロ(約6100万円)に上り、法外な給与だったとして公金横領の疑惑が持たれている。さらに中道右派、共和党と関係の深い出版社でも勤務実態のない顧問を務めていたとされ、疑惑は深まる一方だ。
フィヨン氏は過去に汚職疑惑のうわさが一切なく、クリーンなイメージが強いだけに、妻の架空雇用疑惑は痛手といえる。特に不人気のオランド政権の影響で、左派を敬遠する動きが強まる中、フィヨン氏が大統領に選出される可能性は高いとの見方が優勢だっただけに、先が見えない状況に陥った感がある。
仏メディアは、司法が大統領選前の早い段階で疑惑を否定する結論を出せば、フィヨン氏は名誉を回復できるが、捜査が長引けば大統領選に深刻なダメージを与えるとの見方を示している。さらに捜査の結果、架空雇用は事実と司法が結論づけた場合、フィヨン氏は統一候補として残るのが困難になるとの見方もある。
その場合、昨年暮れの予備選で次点だったジュペ元仏首相が統一候補になる可能性も浮上するが、ジュペ氏は27日、「あり得ない」と候補者になることを否定している。その場合、第3の候補者探しが始まり、中道右派勢力は一挙に形勢が不利になる可能性もある。
一方、左派は29日に予備選の第2回投票を行い、候補を選出したが、大統領選の第2回投票に残る可能性は極めて低いとみられている。また、昨年12月の仏国営ラジオ局フランスアンフォが公表した世論調査では、全回答者の55%が支持し、首位に立った独立候補マクロン前経済相(39)の動向も注目される。
ただ、マクロン氏は政治経験が浅く、大統領としては若過ぎるという見方もある。たとえ第2回投票に残ったとしても、社会党を自ら出たマクロン氏を、左派が支援するのか疑問視されている。また、投資銀行出身のマクロン氏が移民問題や防衛、内政問題でどこまで力を発揮できるのか疑問視する声もある。
候補者の中で最も安定した支持を集めているのが、右派・国民戦線のマリーヌ・ルペン女史だ。ここ数年、シリアやイラク、アフリカから大量の難民が押し寄せ、大規模なテロが欧州内で最も発生しているフランスでは、EUや共通通貨ユーロからの離脱、移民流入を厳しく制限する政策を掲げるルペン候補の主張を支持する有権者は少なくない。
米国に保護主義色の強いトランプ政権が誕生したことも追い風になっている。ルペン候補は移民や対EU政策では、極右的政策を取りながらも、内政では資本主義の過剰な競争から取り残された貧困層や失業者への手厚い保護を政策として掲げている。
そのため支持層はすそ野が広く、左派支持者の中にもルペン氏に鞍(くら)替えする人が出てきている。多くのメディアは昨年、大統領選では第2回投票にルペン氏は確実に残るが、決選投票では、ルペン大統領誕生阻止のために左右両派が共闘し、対立候補が勝つというシナリオが一般的だったが、フィヨン氏の妻のスキャンダルで先は見えなくなった。
フランスで国民戦線の大統領が誕生すれば、ドイツと共にEU統合を牽引(けんいん)してきたフランスのEU離脱の可能性も具体化し、ひいてはEUの崩壊にもつながる可能性がある。