開館50周年迎えた駐札幌大韓民国総領事館

駐札幌大韓民国総領事 韓惠進氏に聞く(上)

広がり見せる相互交流

 駐札幌大韓民国総領事館は今年、開館50周年を迎える。ひと頃の韓流ブームが去り、冷風が日本と韓国の間に吹き込んでいると思いきや、北海道を訪れる韓国人観光客はここ数年、増加傾向を見せている。同総領事館の開館から半世紀。北海道と韓国は新たな交流の歴史を作っていくことになるが、その方向性について韓惠進総領事に聞いた。(聞き手=湯朝肇・札幌支局長)

来道韓国人、2年で倍増/経済、文化 教育分野を背景に
道内15高校が韓国語の授業

北海道に赴任して1年半ほどたつと思いますが、北海道の印象についてお話し下さい。

韓惠進氏

 ハン・ヘジン 1985年、国立ソウル大学卒。84年11月に韓国京郷新聞の記者として活躍した後、2001年、バーソン・マーステラ社韓国法人理事に就任。05年に海洋警察庁政策広報担当官、06年に外交通商部通商広報課長、11年に外交部副報道官などを経て、15年4月に第18代駐札幌韓国総領事に就任、現在に至る。2001年に米国ボストン大学大学院ジャーナリズム修士号を取得。ソウル市出身。

 昨年4月、新春を迎える肌寒い時期に赴任しました。自然環境がそのままに保存され、美しい所だと思いました。そして出会う人々も皆親切で好印象を受けました。特に北海道民は、日本の他の地域と比べ、とても開放的ではないかと思います。赴任後、残雪が解け、街中は綺麗になりましたが、近郊の山の上に残っている白い雪を見た時、韓国とは違う美しさを感じました。

 韓国は5月を「季節の女王」と言います。北海道は日本国内でも美しい四季を楽しめる場所として有名ですが、長い冬を経て、新春を迎える5~6月が最も美しい季節なのではないかと思います。

韓国から北海道を訪れる方は、年々増えています。平成27年には30万人近くになっていると思います。このように来道される方が増えていることについて、どのように分析されていますか。

 地元のメディアが8月31日に、2015年度に北海道を訪れた外国人観光客は前年度比35%増の208万人で、1997年に統計を取り始めて以降、初めて200万人を突破したと報じました。国・地域別では、中国が前年度比63%増の55万4300人と大幅に増え、台湾を抜いて初めて最多になり、台湾は15・9%増の54万7800人、続いて韓国、香港、タイとなりました。

 中国人の増加は、ビザ(査証)発給要件の緩和および航空会社の相次いだ新規就航で、国際的アクセスが改善されたこと。台湾客の増加は紅葉観光への人気が高まったことが主要原因だと報じていました。

 ところが、当館が北海道観光統計局を通し、把握している資料によりますと、ここ数年の北海道を訪れる韓国人は13万7100人(13年)→17万9300人(14年)→26万2300人(15年)で、とりわけ15年は前年比46%増で、初めて20万人を突破し、13年のほぼ倍増と爆発的に増加しました。

確かに北海道を訪れる韓国の方は年々増加していますね。その要因はどのようなものだと思いますか。

 それはいくつかあると思います。

 一般的にいえば、①昨年日本を訪問した韓国人が初めて400万人を超えたのと同じく、全体的に日本への旅行が増えたこと、②東京、大阪、名古屋など、日本の代表的な地域を経験した韓国人が、続いて日本国内でも目新しい北海道まで訪問するということ、③最近、韓国で北海道あるいは札幌が新しい旅行地として脚光を浴びている点―などが挙げられると思います。

 ただ、ここで私は、さらに根本的な二つの理由を挙げながら、説明したいと思います。一つは、02年韓日ワールドカップ共催を機に、一時的な韓日ビザ免除施行後、相互開放的な交流拡大の礎を造り上げたことが大きいと思います。

 その結果、1965年の国交正常化以降、相手国のビザを取った人に限って、行き来ができる限られた交流から一般人も自由に往来する新しい交流の道が開かれ、両国間交流は年々増え、2010年からは年間交流人口が500万人という時代を切り開いてきました。

 そして、交流の初めは、訪韓日本人の方が多かったですが、12年をもって、訪日韓国人は徐々に増加している一方、韓国を訪問する日本人は減りつつあります。

 二つ目の理由としては、訪韓日本人は減りつつあるのに対し、訪日韓国人は増えている現状があります。これはどのように説明できるのでしょうか。およそ10年にわたり、日本では「韓流」がブームになったこともあり、韓国を訪れる日本人が増えた一方で、ここ数年、「嫌韓」が大きく反響を呼び、「嫌韓示威」や「ヘイトスピーチ」が登場し、書店の店頭には「嫌韓書籍」が展示され、かなりの販売数だったと聞いております。

 ところで、この期間中、韓国では、「領土問題」や「従軍慰安婦問題」などの論点で一部の政治家や団体などにより、日本を糾弾する示威がたびたびあったものの、村上春樹のような有名作家の本が翻訳され、大型書店の最も目立つところに特別コーナーが設けられ、ベストセラーになったり、若者が集うところには日本の飲食店や居酒屋が急増したりするなどの状況について、朝日新聞は「歴史はさておき、韓国での『日流』」というタイトルで韓日国交正常化50周年を迎えた昨年7月30日に報じたことがあります。この傾向も韓国人観光客が増えたのに大きく作用したのではないかと思います。

 すなわち、これらの要因として、14年訪日韓国人数が訪韓日本人数を初めて逆転した後、昨年は、訪韓日本人184万人の倍を超える400万人の韓国人が日本を訪れるようになりました。

そこで観光以外で、経済や文化などの分野で北海道との交流をどのように考えていますか。また、経済や文化、教育などでの具体的な交流があれば教えてほしいと思います。

 観光というのは、両国間の政治的な理解関係や昨年、韓国で起きた事件や事故など、予想できない変数が現れるたびに大きく影響され、持続した交流は難しくなりがちだと思います。従って、経済や文化など実質的な交流がその背景にあってこそ、安定した交流ができると思います。

 実例を挙げながら説明しますと、水産物を輸出しているある韓国企業者の場合、韓国で「中東呼吸器症候群(MERS)の流行」が起き、大半の日本人が韓国への訪問を避けた時も、北海道内の水産関連業者と韓国のあちらこちらを巡りましたが、全く問題はなく、むしろ水産業者の好評を受け、長期的な関係を続けていくことができたそうです。

 当館が把握している経済分野での交流の例の中では、最近、韓国の若手化粧品企業が富良野地域のラベンダー農場に大規模な投資をし、これを基にして、新しい化粧品の開発で連携する事業を進めています。

 この事業が予定通り進むと、まもなく北海道での代表的な経済交流の事例になるのではないかと期待しています。一方、サッポロドラッグストアーも韓国CJグループのオリーブヤングと業務提携(商品を相互輸出入する取引)を行っています。

 文化という分野では1985年、韓国の慶尚南道晉州市と北海道北見市が自治体間交流としては初めて公式に友好交流を始め、晉州市ロータリークラブと北見市日韓友好親善協会が毎年10月下旬に北見市内で、「コリアンフェア」を開催しています。今年で18回目を迎えるこのフェアは地域の人約700人が参加するなど、地域の代表的な行事として根付いています。

 また、これとは別に、韓国の病院と日本の医療法人は30年以上前から高齢者に対する医療・保健・福祉などの分野で交流をしてきた事例もあります。

 一方、教育分野では道内高校15校が韓国語を採択し、韓国語の授業を行っています。また、旭川にある旭川実業高校は韓国ソウルの「慶福女子高校」「慶福ビジネス高校」と81年姉妹校提携して以来、84年から2013年まで、毎年300人余りの学生が韓国に修学旅行へ行き、韓国でも学生代表と先生方が来るなどの交流が続いています。こうした観光以外での経済、文化、教育といった幅広い分野での着実で実質的な交流が今後も大切であろうと考えています。