EU、離脱の連鎖に恐々

ポピュリズムと国民投票に揺れる

 英国の欧州連合(EU)離脱が国民投票で決定して以来、EU内には、離脱の連鎖が起きることへの警戒感が増している。その背景には、反EUを掲げるポピュリズム政党の台頭と、加盟各国が外交課題を国民投票にかける傾向が強まっていることにある。移民、難民問題に揺れるEUは統合以降、統治問題で最も大きな試練を受けているといえそうだ。(パリ・安倍雅信)

ギリシャ危機、難民、英国…尽きない火種
募る弱体化への危機感

 EUはスロバキアの首都ブラチスラバで16日、英国離脱後について協議する非公式首脳会議を開いた。英国が出席しない初の首脳会議には27カ国の全首脳が出席し、各首脳は、EUが弱体化しているとの認識で一致し、EU市民の信頼回復と連帯強化のために半年以内に新たな「ビジョン」を

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16日、ブラチスラバで欧州連合(EU)首脳会合を前に、取材に応じるフランスのオランド大統領(中央)(AFP=時事)

構築することで合意した。

 昨年来、大量流入する移民・難民問題による加盟国間の亀裂が表面化するEUは、国境対策や治安対策、さらには低迷する経済の再生に対処するためのロードマップ(行程表)を打ち出した。特に不法移民の流入を防ぐため「国境管理が重要」(オランド仏大統領)との認識で仏独首脳は一致した。とはいえ、参加したイタリアのレンツィ首相は、会議後の記者会見で「納得のいかないことを合意事項として読み上げるわけにはいかない」と述べ、緊縮財政緩和や昨年来、地中海を渡りアフリカから流入する大量難民対策の議論が難航していることが明らかになった。

 一方、EU離脱を決めている英国について、トゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)は会議後の記者会見で、メイ英首相から正式な離脱通告の日程について、2017年1~2月には準備が整うとの説明を受けたと述べた。しかし、メイ首相は英国内で時期について明言していないため、英政界には戸惑いもある。

 ブラチスラバで新たなビジョンを打ち出すことで合意したEUだが、英国の離脱のみならず、加盟国の亀裂をもたらし、EU市民の信頼を失うきっかけとなったのが、ギリシャの財政危機に端を発した経済問題であり、大量流入する移民・難民問題だ。

 ギリシャやイタリアは、EUが打ち出す財政緊縮策の緩和を求めているが、納得の得られる回答は得られていない。ユンケル欧州委員長が主導する域内投資計画の拡充提言も具体化には時間を要する。さらに両国は、北アフリカ、シリア、イラク、アフガニスタンなどからの難民流入への対応に苦慮している。

 その一方で、旧中・東欧諸国は難民自体の受け入れに反対しており、平等な負担を要求しているフランスやドイツとの亀裂は深まるばかりだ。国境対策や治安対策の新たな対策を協議するロードマップが16日の首脳会議で示されたが、協議の難航が予想される。

 また、英国の離脱に影響を与えたEUの意思決定と各国の裁量権の間の溝が埋まらない問題もある。加盟各国は課題が異なり、各国国民の声がEUレベルで無視されているという不信感には深刻なものがある。

 EUへの不信感は、加盟各国のポピュリズム反EU政党の支持拡大にもつながっている。今月4日に実施されたドイツ北東部の旧東独のメクレンブルク・フォアポンメルン州の州議会選挙では、メルケル独首相率いる、キリスト教民主同盟(CDU)が、創設3年目の新党、反移民の「ドイツのための選択肢(AfD)」に抜かれ、第3党に後退した。

 右派政党・国民戦線(FN)を率いるフランスのマリーヌ・ルペン党首は、来年の大統領選の有力候補となっており、移民排撃のオランダの極右政党・自由党率いるウィルダース党首は高い支持率を得ている。オーストリアでは、今年4月の大統領選挙で、反EUの自由党のノルベルト・ホーファー国民議会第3議長が大統領選挙の第1回投票で首位に立つなど、ポピュリズム政党の伸張はとどまるところを知らない。

 一方、加盟各国の政治家とEU官僚の間の確執から、国民投票を実施する国が増えた。昨夏のギリシャの国民投票、一昨年のスコットランドの独立をめぐる住民投票。デンマーク、オランダ、アイルランドでも国民投票が実施され、2000年以降、国際的な問題に関する国民投票がEU内で40回以上行われている。

 だが、国民に責任を押しつける形となる国民投票は、英国のような結果ももたらす。ポピュリズム政党が伸張する中での国民投票にはリスクが伴う。EUは発足以来の危機的状況に置かれているが、どのようなビジョンを打ち出すのか、重い課題が突きつけられている。