【韓国紙】国民の安保不安煽る合同参謀本部 北朝鮮ミサイルに右往左往


韓国紙セゲイルボ

17日、韓国ソウルの駅構内で、北朝鮮によるミサイル発射のニュースを見る男性(AFP時事)

 今月7日午前、北朝鮮が2日前に発射したミサイルに関して軍当局が突然ブリーフィングをすると知らせてきた。金曜日午後のブリーフィングはめったにない。合同参謀本部がこの2日間見せてきた消極的な姿とは180度違っていた。大統領府の直接的な下命があったという噂(うわさ)が広まった。

 合参本部は5日、北朝鮮が極超音速ミサイルだと主張する弾道ミサイルを発射した後、場所と時間のほか、特別な情報は公開していなかった。最小限の情報だけでも提供してほしいとメディアが騒いでも「分析中」とだけ繰り返した。

 翌日、北朝鮮が極超音速ミサイルを試験発射したと発表した後も、「韓米情報当局が把握した情報と差がある」と説明しただけだ。

 合参本部が口を閉じるとすぐにメディアは北朝鮮の極超音速ミサイルに対する憂慮を大量に流した。国民の不安は高まり、合参本部が北ミサイルをまともに探知できないのではないかという心配も広がった。

 世論が異常気流を受けて、合参本部と国防部、国防科学研究所は2日後の7日、事態を鎮火させるために一部情報を公開した。軍は北朝鮮が発射したのは極超音速ミサイルでなく一般的な弾道ミサイルだと評価した。韓米連合の装備で十分に探知・迎撃できるという自信ものぞかせた。だが、この日のブリーフィングでも具体的な探知情報とミサイル発射地は確認できなかった。韓国軍が十分に対応できるという自信の根拠もやはり聞くことができなかった。

 北朝鮮は韓国軍の評価をあざ笑うかのように、11日、極超音速ミサイルだと主張する最高速度マッハ10(時速1万2240㌔㍍)内外の弾道ミサイルをまた発射した。6日前に発射したミサイルより2倍近く速くなったのだ。合参本部はこの日も一貫性のない対応で混乱を招いた。ミサイル探知の事実を午前に文書で公示したが、3時間後に開かれた国防部定例ブリーフィングに合参本部関係者は現れなかった。

 追加の公示を出し、ブリーフィングを行ったのはミサイル発射 7時間後だった。6日前には沈黙で一貫した合参本部が今回は発射当日、速度など基本情報を公開したのも釈然としない部分だ。合参本部が北朝鮮のミサイル発射時に、正確な情報公開基準を持っているのか疑問だ。もし基準があるのに、外部の状況によって態勢が変わるのならば、さらに大きな問題だ。この背景についても合参本部の公式説明はなかった。

 極超音速ミサイルは“ゲームチェンジャー”と呼ばれるほど、韓半島の安保情勢に大きな影響を及ぼす兵器だ。事実かどうかは別として、北朝鮮が極超音速ミサイルの開発成功を主張しつつ、連日武力を誇示した。それならば、国家安保に責任を持つ合参本部が明確な原則に基づいて国民と迅速に疎通してこそ不必要な混乱を防ぐことができる。合参本部が国民の安保不安を煽っているとの批判を免れないのはそのためだ。国民が恐れているのは北朝鮮のミサイルでなく、右往左往する合参本部の姿だ。

(ク・ユンモ外交安保部記者、1月15日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

「由らしむべし、知らしむべからず」

 韓国政府と軍首脳はそもそも情報力が劣るのか、それとも民は盲目でいるべきだと考えているのか。北朝鮮が「極超音速ミサイル」を何回も発射し、国民の不安が広がっている状況で、適宜情報を流すのでなく、不十分な説明で国民に不安だけを与えているのは、どうみても“国民に寄り添う”政府ではない。

 民は「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」(「論語」泰伯)というのは封建時代の統治術である。国民は知る必要はない、ただ従っているだけでいい、という統治者の傲慢(ごうまん)な態度だ。この情報化時代でそんな古い手が通用するはずもない。できるだけ、情報を開示し共有することが求められている。

 なのに軍が情報を出さないとなれば、国民は「軍が情報を把握できていないのではないか」と疑心を持つのは避けられない。これが本当に探知できなかったのであれば、安保上の重大問題であり、軍の失態だ。

 トンガでの噴火により津波が日本にも押し寄せた。津波は通常、海底地震によって発生するが、火山噴火によって生じた津波のため、気象庁も正確な把握は難しかった。当初の予測よりも、実際の津波は小さく、被害も軽微で済んだが、これに対して韓国メディアは「予測と実際の観測値の間に相当な誤差が生じた」と、あたかも気象庁の失態のように報じた。

 津波に対する警戒心が強いのは東日本大震災の教訓である。命に関わることであり、いくら警戒してもし過ぎることはない。むしろ「空振り」を恐れて「見逃し」をすれば被害が出るのである。

 空振りを笑うのは防衛に対する緩みであり、既に心理的に武装解除されていると考えた方がいい。韓国軍の状況がそうでないことを願う。

(岩崎 哲)