世論操作は民主主義破壊の重罪、側近有罪確定に文氏は沈黙


韓国紙セゲイルボ

 大法院(最高裁)は2017年大統領選挙を前後して「ドゥルキング一党のインターネット書き込み世論操作」事件で起訴されていた金慶洙(キムギョンス)前慶南道知事に対し懲役2年を確定した。

2019年1月30日、実刑判決後、ソウル地裁から拘置状に移送される金慶洙慶南道知事(韓国セゲイルボ提供)

2019年1月30日、実刑判決後、ソウル地裁から拘置状に移送される金慶洙慶南道知事(韓国セゲイルボ提供)

 金前知事は判決直後、「真実はいくら遠くに投げても本来の位置に戻る」と強弁したが、野党側の攻撃は波状的だ。この書き込み操作の主要被害者である安哲秀(アンチョルス)国民の党代表は、「大法院の最終判決で、先の大統領選挙は『5・9不正選挙』として歴史に記録されることになった」とし、「文在寅(ムンジェイン)政権は民意によって選出された正統性ある民主政権ではない」と強く批判した。野党側は文大統領の謝罪を促し、真相究明のための共同対応を注文している。

 文大統領は12年の大統領選挙で露呈した国家情報院の書き込み操作に対して、「あらかじめ知っていようがいまいが、(朴槿恵(パククネ))大統領は受恵者。大統領選挙の不公正と民主主義の危機に責任を負わなければならない」と語った。

 ならば17年大統領選挙当時、自身の最側近が犯した世論操作行為に対して、国民が納得できる立場を説明し、謝罪しなければならない。大統領の“沈黙”は無責任であり、現政権が口さえ開けば言及するロウソク(デモ)精神を、否定するものだ。

 金前知事が書き込み操作に共謀したのは16年11月からだ。怒った国民が光化門広場に集まり、ロウソクを持って朴槿恵国政壟断を糾弾した時、金前知事がドゥルキングと数回会って書き込み操作を指示し、報告を受けたというのは実に衝撃的で破廉恥なことだ。明らかにSNSを通じた世論操作は民主主義の花と呼ばれる選挙の公正さを揺るがす重大な犯罪行為だ。ところが、与党の有力大統領選候補らはこの犯罪行為をかばおうとしている。これは法治主義と常識を破壊する自殺行為だ。

 今回の大法院判決が与える政治的意味合いは非常に大きい。「今後、公正な選挙を行えとの命令」だと解釈されるが、来年の大統領選挙でも形を変えた世論操作が発生しないとは言えない。韓国の選挙で世論の歪曲と操作が絶えないのは、組織を利用した選挙運動からSNS選挙に変わり、世論の歪曲(わいきょく)に対する処罰があまりにも軽いためだ。逸脱行為を遮断し“選挙の公正さ”を担保するには画期的な公職選挙法改正が必要だ。

 法の公平性の次元から、大統領も例外なく当選無効規定が適用されなければならない。大統領候補者の家族、最側近らが世論操作、政治資金違反など重大犯罪を犯す場合にも当選を無効にするべきだ。

 特別検察官が18年8月、金前知事を在宅起訴してから最終判決まで35カ月かかったことも理解し難い。今後、大統領選挙関連の公訴の時効は大幅に延長し、世論操作に関する選挙法違反者には、1年内に必ず大法院判決が下されるようにしなければならない。

 国民の政治的意思決定に影響を及ぼすため人為的に世論を歪曲・操作して勝利することは、正統性が欠如した“原則なき勝利”でしかない。

(金亨俊(キムヒョンジュン)明知大教授、7月28日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

頼みの綱断たれ起死回生は?

 金慶洙前知事の有罪確定は政権与党、とりわけ文在寅大統領に衝撃を与えただろう。記事で指摘している通り、前政権の不正を追及し追い落として政権を奪取した文大統領の「正統性」がこれで崩れた。そうなると、自らを「正統」としたところで成立した「積弊清算」が、単なる仕返し、リベンジにすぎなかったことになる。
 知られているように韓国大統領の退任後は多難だ。初代の李承晩(イスンマン)大統領から朴槿恵大統領まで18代11人を見ると、亡命が1人、暗殺1人、有罪判決5人、自殺1人、親族の逮捕・訴追が2人だ。穏やかな余生を送ったのは崔圭夏(チェギュハ)大統領1人だけである。

 頼みの後継者と期待した金前知事が落馬どころか、レースにすら参加できないとなると、文大統領の退任後が危うくなる。しかも、現在与党から出馬表明しているのは李洛淵(イナギョン)元首相、李在明(イジェミョン)京畿道知事の2人だが、いずれも党内非主流派だ。文大統領のいわゆる「文派」「親文」ではない。信頼して政権を託せるわけではなく、場合によっては彼らから追及を受けることもあり得る。

 まして政権交代が行われれば、新政権によって「ネット世論操作事件」はさらに掘り返され、文在寅氏の関与の痕跡までしつこく追及されるだろう。なにしろ文氏は「知っていようがいまいが、受益者は同罪だ」と叫んでいたのだから、その言葉がそのまま自身に巨大ブーメランとして突き刺さるのだ。

 それを避けるためには「親文嫡子」と言われた金前知事を大統領に推し上げるしかなかった。頼みの綱が失われた文在寅氏に起死回生の策はあるのか。

(岩崎 哲)