北朝鮮情勢 国際社会は民主化を促せ


 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は党中央委員会の政治局拡大会議で、新型コロナウイルスと関連し「重大事件」が発生したとし、一部の最高幹部の責任を問い解任した。北朝鮮では今年に入り党の重要な会議が頻繁に招集され、そのたびに厳しい経済状況が報告されてもいる。

 これらは国内の苦境を反映したものといえ、北朝鮮との間で拉致・核・ミサイル問題を抱える日本としても、その情勢には注意を払う必要がある。

コロナ感染者発生か

 これまで北朝鮮は国内でのコロナ感染者はいないと言い続けてきた。それが今回の会議で正恩氏自身がコロナをめぐり「国家と人民の安全に危機をもたらす重大事件があった」と述べ、幹部らの「無能と無責任さ」を叱責した。

 詳細は明らかではないが、北朝鮮でも国内感染者が発生したのではないかとの見方が広がっている。防疫体制が脆弱(ぜいじゃく)な北朝鮮にコロナが蔓延(まんえん)すれば、社会が大混乱に陥る恐れもある。それはそのまま住民の体制不信につながっていくだろう。

 昨年、北朝鮮近海を漂流した韓国公務員が北朝鮮軍によって射殺、焼却されるというショッキングな事件が起きたが、これも北朝鮮がいかにコロナ防疫に神経を尖(とが)らせているかを物語るものだ。

 感染は、封鎖されているはずの中国との国境を往来する密貿易商などからもたらされた可能性もある。ワクチン接種の普及などでようやく国境封鎖の解除が取り沙汰されていた矢先、今回の出来事で封鎖解除が逆に遅れることになれば、北朝鮮経済への打撃は大きい。

 国連による制裁で深刻になり始めたと言われる北朝鮮の経済難は、その後のコロナ感染防止のための国境封鎖や昨年の水害などが重なり、さらに悪化したとみられている。正恩氏は「自力更生」や「苦難の行軍」という言葉を多用し、幹部を引き締め、住民を鼓舞しているが、根本的な解決方法を見いだせていないようにみえる。

 事態打開には米国との交渉で制裁緩和を引き出すほかないだろう。だが、米朝対話は進展していない。米朝の仲介役を果たした韓国の文在寅政権も任期が残り1年を切り、レームダック(死に体)化が進んでいる。

 正恩氏は国営メディアを通じ、自分は住民のために身を粉にして働く指導者だとアピールする一方、会議では幹部たちを叱責した。独裁体制という性質上、最高指導者である自身の過ちにはできないためだ。だが、幹部たちの面従腹背が恒常化すれば、体制にとってそれも一つのリスクになる。

 正恩氏が国政運営で難しい舵(かじ)取りを迫られているのは確かだが、この国では3代続く世襲独裁が75年以上続いていることを忘れてはなるまい。危機に対する抵抗力があることを念頭に入れ、国際社会は北朝鮮に民主化を促す努力を続けるべきだ。

中国にも厳しい目を

 「重大事件」の発表に中国はすぐ反応し、ワクチン供給を含む医療協力の用意があることを示唆した。北朝鮮の後ろ盾になり続けようとする中国にも厳しい目を向けなければならない。