ソウル・釜山市長補選控え批判合戦
“北風”“親日”国内選挙に利用
ソウル・釜山両市の市長補欠選挙を控えて、政界に時ならぬ“北風・日風”が吹いている。保守陣営では北朝鮮問題と理念の物差しを突きつけて進歩陣営を圧迫し、与党では野党を「親日DNA」と貶(けな)して攻勢をかけている。
野党国民の力は文在寅(ムンジェイン)大統領が金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記に渡したUSBと産業通商資源部で検討した「北朝鮮原発文書」を根拠に、国政調査まで要求している。
同党の朱豪英(チュホヨン)院内代表は、「脱原発政策をゴリ押しする一方で、核兵器を手にした金正恩に原発を建ててやろうとしたことは、大韓民国の安保を脅かす利敵行為」だとし、国政調査を促した。
だが、共に民主党の金太年(キムテニョン)院内代表は、「大統領府や産業部、統一部で詳しく国民に説明したので、ファクトとして全て究明されている」とし、「象徴的にすら推進できなかった事業をなぜ野党で問題にするだろうか」と拒否の意思を明確にした。
与党では野党の攻勢を“季節外れの北風”と規定する。選挙の時だけ北関連イシューを国内政治に利用しようとする動きが慣行化しているためだ。民主党の李洛淵(イナギョン)代表は2日、「政治をこれ以上後退させてはならない。選挙になると色分け攻勢に明け暮れる絶望の沼から抜け出そう」と訴えた。
野党発の北風が問題ならば、与党は忘れかけると“親日”攻勢で保守陣営を攻撃する。国民の力の金鍾仁(キムジョンイン)非常対策委員長が1日、釜山で「韓日海底トンネル」推進を約束すると、民主党はすぐさま「親日DNA」だと攻撃した。同党の崔仁昊(チェインホ)首席報道官は「韓日海底トンネルは我が国よりも日本により利益になる事業」とし、「同党の悪い選挙用DNAをなくす近道は国民の審判(選挙)」だと強調した。
民主党は昨年の総選挙で「韓日戦」というフレームで世論を駆り立てた。当時、全国の与党候補陣営に部外秘の資料「総選挙戦略広報遊説マニュアル」を配り「今回の選挙は韓日戦」と言及した。韓米日協力などを重視する保守陣営の特性を逆利用して「親日」フレームをかぶせるわけだ。
与党はその一方で、日本との関係回復のために戦々恐々としており、このような親日攻勢が矛盾しているという指摘も出ている。日王を「天皇」と尊称した姜昌一(カンチャンイル)駐日大使も、「文在寅政府は韓日関係を正常化したいという確固たる意志を持っており、大統領も新年の記者会見で明らかにした」と述べたためだ。
専門家たちは外交問題を国内選挙用に利用しようとする政界の態度を問題視した。申律(シンリュル)明知大教授は、「外交問題を選挙に利用してはならない」とし、「国家運営がかかっている外交問題をそんなふうに話してもらっては困る。とりわけ与党なら、少なくとも国家の長期的な眼目を持って選挙に臨まなければならないのに、勝つために何でもかんでも言うのはありえない」と批判した。
(チェ・ヒョンチャン記者、2月2日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
地方首長選、「外交」が争点に
韓国が政治の季節に入ったようだ。4月に予定されているソウルと釜山の市長補選を前に早くも与野党が「外交」問題で批判合戦を繰り広げている。
第1、2の大都市とはいえ、たかだか市長選で「他国との関係」が持ち出されるところに韓国の特長がある。左派与党は保守野党の「親日」度を取り上げて、国民の反日感情に訴える。一方、野党は最近明らかになった3年前の「徒歩の橋」密談で、文在寅大統領が金正恩委員長に「原発建設」の話をし、なにやら韓国政府の公文書が入ったUSBを渡した「利敵行為」を持ち出して攻撃する。
このように韓国は地方政治であっても「北朝鮮」と「日本」がイシューになるわけだ。例えて言えば大阪市長選で「北ミサイル」や「バイデン米政権」が争点となるようなもので、それだけ国際情勢が直結しているということでもある。
ただし、これはまともな政策論争としてあるわけではない。お互いを貶すための話題だ。話の種にされた方はたまったものではない。だから学者が「政党が選挙に勝とうとして外交問題を利用してはならない」とくぎを刺す。しかし、それで支持者固めができれば、手段を選ばないのが政治家。事実、去年の総選挙で与党は「今回の選挙は韓日戦」としてマニュアルまでつくり“親日”野党をやっつけた。
野党幹部があえてこの時期に「日韓海底トンネル」を持ち出した理由がいまいち不明だ。両国で論争が多くアンチもいる。一方“反日”が売りだった政府与党側も対日関係改善シグナルをしきりに出している。こうしてみると、やはり「日本」は韓国で大きなイシューなのである。
(岩崎 哲)