「3年前の春」の日は、もうこない 対北朝鮮外交の再整備を
北朝鮮は朝鮮労働党の第8回党大会で米国に一方的に前向きな対北政策を要求しながら、非核化には言及さえしなかった。今月20日に発足するジョー・バイデン米新政権が、どんな対応をとるかで韓半島情勢はもう一度揺れ動くことになる。
金正恩国務委員長は米国を“最大の主敵”として、「今後も、強硬には強硬で、善意には善意で米国に対していく」と述べ、対北敵対政策を撤回せよと迫った。韓国には、韓米合同演習と先端兵器の導入を中止せよと警告し、南北合意の履行を要求。「南朝鮮当局の態度によっては、近く南北関係が3年前の春のように平和と繁栄の新しい出発点に戻ることもできる」と語った。2018年春、板門店で南北首脳会談が2度開かれ、南北関係が好転した時が再演される余地をほのめかしたのだ。米国と韓国の動向に合わせて対応するというメッセージだ。
北朝鮮は党大会で、米本土を射程圏内に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の命中精度を高めるなど、国防力強化を決めた。バイデン政権を狙ったものだ。しかしバイデン政権は新型コロナ、米中対立など懸案が多く、北核問題を国政の優先課題にしにくいだろう。北朝鮮の立場では3月に予定される韓米合同演習を前後して新型ミサイル実験などの挑発で交渉を引き出そうとするかもしれない。
北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる中で、韓国政府が追求する韓半島平和プロセスは中断された状態だ。韓国はこれに賢く対処しなければならないが、情勢に対応し得る外交力量があるかどうかが問われている。
魏聖洛(ウィソンナク)元駐露大使は著書『韓国外交アップグレード提言』で、自己中心的・感情的な観点、政治に従属した外交、理念性・党派性、ポピュリズム、アマチュアリズムを韓国外交の“5大泥沼”に挙げた。
4月のソウル・釜山市長補欠選挙の後、政界が次期大統領選挙に没頭すれば、北核議論は理念・党派により硬軟の両極端に分かれ、これにポピュリズムまで加わるだろう。こうした時であるほど正統外交官たちが奮発して、合理的で冷徹に問題を解いていかなければならない。
文在寅大統領は新年の辞で北朝鮮に「いつでもどこでも会って、非対面方式でも対話することができる」と呼び掛けたが、現在の状況にふさわしい言葉なのか疑問を感じる。
韓国政府は米朝間の交渉仲裁者の役割を避けることはできない。その際、韓米同盟および韓米日安保協力の強化が優先課題だ。対北国際協調を固めるため中国・ロシアを引き入れる努力も疎かにしてはならない。韓国の貧弱な外交資産からみると、難易度の高い高次方程式だ。
3年前のように急に交渉局面に入ることはないだろう。こうした状況で安保危機を防ぎ、北核交渉を再開しようとするなら、まず韓国の外交から再整備しなければならない。北核外交において創意性と柔軟性を発揮しなければならない時だ。
(朴完奎論説室長、1月12日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
「外交グレードアップ提言」読み直せ
弾道ミサイルだ、国連制裁だと、力比べをしている外交の場に「韓半島平和プロセス」だの「共生と平和」だのと、場違いな“理念先行”の理想主義を持ち込んだ韓国が、結局、米朝双方に振り回されて終わったのが「3年前の春」である。
北朝鮮から、韓国の態度次第ではその再演もあると囁きかけられれば、文在寅大統領は懲りずに勇んでバイデン米政府に話を持って行くだろう。
だが、折り悪くというか、韓国はこれから大きな政治イベントを迎える。4月にはソウル・釜山の市長補選が、それが終われば政局は一気に来春の大統領選に向かって走り出す。同時に文大統領のレームダック化が進み、政権末期の大統領に「外交力量」を発揮する機会など訪れない、とは、日本人ですら分かる方程式だ。
朴論説室長は「3年前の春は来ない」といいつつも、文政権に過重な期待を寄せているように見える。まだ文大統領に外交実績を積む余地があると本気で見ているのだろうか。また大統領府でさえ相手にしない外交部(部は省に相当)に「正統外交官」が仕事をしうる余地があるのだろうか。第一、対北関係は統一部(同)の所管だ。
一方、北朝鮮とすれば、言うことを聞いてくれる文大統領が座を維持している間に得るものを得ておこうとするかもしれない。「3年前の春」という言葉は甘く聞こえるが、この際、魏聖洛大使の提言を読み直したらいい。
(岩崎 哲)