朴智元国情院長は外交長官なのか
「文・菅宣言」提案も公開
朴智元(パクチウォン)国家情報院長は情報機関の長としては信じられないほど派手に日本を訪問した。異例なことに国情院長の海外訪問が出発前から露呈した。日本では面談後に囲み取材に応じたり、自ら「文在寅・菅義偉宣言」提案といった訪問内容を公開したりした。国情院長としては奇行に近い。
2018年訪日した徐薫(ソフン)国情院長(当時)は訪朝結果を説明するための大統領特使の資格だったが、朴院長は政府特使ではない。このような時メディアは普通「自分の商売(政治)をする」という表現を付け加える。大義や公益より自分の利益を取るという意味だ。
朴院長が今回公開した内容はさらに大きな問題だ。菅首相に会って「文・菅宣言」を提案したと主張したことから首をかしげざるをえない。康京和外交部長官(外相)がいるのに、なぜ国情院長が公開でそのような提案をするのか。政府組織法や国情院法によれば国情院は国外情報および国内保安情報、防諜(ぼうちょう)などを担当する情報機関だ。対北朝鮮政策は統一部、外交政策は外交部が主務部処(省庁)だ。
対北分野で国情院の政策機能より情報機能を強化しなければならないという指摘がある。ところが朴院長は逆に外交分野で情報機能よりは政策機能を強化しようということなのか。(国交正常化に向けた)韓日会談を主導した金鍾泌(キムジョンピル)元中央情報部長、日本軍慰安婦問題解決に意欲的だった李丙琪(イビョンギ)元国情院長がちらつく。対北朝鮮分野で“徐薫(前国情院長、現国家安保室長)の壁”が高いので、注目度が高い韓日問題に方向を定めたのではないことを願いたい。
一方、日本側の評価はどうなのか。「首相官邸では、愛想の良い朴院長に『あざとい』(関係者)という不満が出ている」と現地紙は雰囲気を伝えた。文・菅宣言を提案したという朴院長の主張を加藤勝信官房長官がことさら黙殺した背景と見える。
議員外交、民間外交という言葉もあるように国情院の水面下外交なら問題にしにくい。国情院が公式な外交を担う外交部の補完的役割として役に立つ部分があることも否定できない。
冷戦時代以来、国情院、軍事安保支援司令部の活動舞台だった日本は韓国の情報・防諜機関と日本当局、政界に太いパイプがある地域だけに効果があった。実際、大使館が乗り出せば内政干渉問題に飛び火する懸案を国情院が解決する事例もある。
国情院長が何かをしようとするなら情報機関の長らしく工作活動するように静かにしろということだ。
(金青中(キムチョンジュン)東京特派員、11月16日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
表に出て手柄求めた情報部の長
押し掛けてきた情報機関の長が白日の下で管轄外の外交パフォーマンスを行う。この奇妙な光景を相手側のペースで見せられていたのが日本政府だった。韓国の朴智元国家情報院長が繰り広げた“外交ショー”だ。
しかも何の根回しもなく突然「菅・文宣言」を提案された。確かに「小渕・金大中宣言」(1998年)は戦後の日韓関係が最も良好だった時の金字塔だが、戦後最悪の時に持ち出せるアイデアではない。「いったい何を考えているのか」というのが日本側の本音である。
最近、韓国側から一方的に関係改善打診の声が聞こえてくる。しかし、これは日本側は頑なであっても韓国側は「やってますよ」と“努力”をアピールするもので、相手側を考慮した動きではない。米国でバイデン政権が誕生しそうな状況で、それを意識したアリバイ工作の性格もあるだろう。徴用工問題でボールは韓国側にあるのに、「宣言」を打ち返した格好にし、あわよくば「動かないのは日本だ」と言いたいのだ。
朴院長のスタンドプレーに政権内の手柄争いの側面を金青中特派員は見ている。前任の徐薫国家安保室長が南北会談を取り仕切り対北朝鮮で“陰の主役”になっていることから、朴院長は対日問題で主導権を握りたいとの思惑が透けて見える、というのである。
それにしても対北は統一部、対日は外交部の所管なのに、それぞれの長は頭越しに動かれている格好だ。これが文在寅政権のやり方なら、内部は相当に混乱している。真の交渉窓口を見誤る恐れがあるということだ。
(岩崎 哲)