米大統領選挙後に備えているか、 シナリオ別対策の準備急げ


韓国紙セゲイルボ

 今回の米大統領選挙は米国史上最も汚らしい選挙戦といわれる。ビジョンや政策は表に出ず、暴言の応酬だけが騒がしい。世論調査では、民主党のジョー・バイデン候補が共和党候補のドナルド・トランプ大統領をリードしているが、その差が狭まっている。

2019年6月27日、大阪市内で、握手する中国の習近平国家主席(右)と韓国の文在寅大統領(EPA時事)

2019年6月27日、大阪市内で、握手する中国の習近平国家主席(右)と韓国の文在寅大統領(EPA時事)

 米大統領選は投票日に即日開票が進む中で大勢が傾けば、敗者が敗北宣言をすることで終わる。だが、今回は11月3日の投票が終わっても、しばらく当選者が確定しない公算が大きい。新型コロナ感染拡大のために事前投票と郵便投票が大きく増えたためだ。郵便投票の開票が遅れ、当選者確定も遅れるだろう。

 トランプ大統領は、「郵便投票は詐欺だ」と主張する。郵便投票の意向を表明した大多数が民主党支持者だ。開票中断宣言や選挙結果に不服を唱える事態につながるかもしれない。また、トランプ大統領が不利なら支持者が訴訟を起こし、連邦最高裁が当選者を決める可能性がある。最悪の場合、米国の民主主義システムが崩壊することもありうる。

 19世紀のフランスの思想家トクビルが著書『米国の民主主義』で「地上で最も民主的な国家」だと感嘆した米国の現住所がこれだ。民主主義の模範国の地位を取り下げたとの分析まで出ている。誰も想像すらできなかった状況だ。これを反面教師としなければならない。米国だけの現象でない。遠からず韓国でも起こることなのかもしれない。

 米大統領選挙後に備えなければならない時だ。トランプ大統領の再選や民主党への政権交代が順調になされれば、韓国はこれに従って落ち着いて対処すれば良い。

 トランプ大統領が勝利すれば、米国優先主義を土台にしたトランプ政策が米国の新しい基調として根を下ろすことを意味する。バイデン候補が当選すれば同盟重視政策に復帰するだろうが、反中戦線参加の圧力は減らないだろう。

 万一、米国が大統領選挙後、リーダーシップの空白状態に陥れば、政治の不確実性が国際情勢を揺るがすだろう。米中対立がどんな方向に向かうかもしれない状況で、北東アジアの安保地形は動揺し、北朝鮮の挑発も憂慮される。

 世界経済もやはり不安定になるだろう。新型コロナウイルス感染拡大の渦中に世界経済危機に直面するとすれば、考えただけでも背筋が寒くなる。

 韓国政府の役割が極めて重要だ。大統領府と外交部など関係部署が協力して、トランプ・バイデンの両陣営に接触して情報を収集した後、多様なシナリオ別対策をたてなければならない。こうした時であるほど創意的発想が必要だ。予想される事例別に柔軟に適用できる政策をあらかじめ用意しなければならない。残った時間は多くない。

(朴完奎論説室長、10月20日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

対中姿勢選択迫られる韓国

 韓国も米大統領選の行方を注視している。民主主義の盟主としての米国で、ほぼ非難の応酬だけで推移する選挙戦をみて民主主義の危機を感じ、また郵便投票をめぐってひと悶着(もんちゃく)ありそうだと構えているのは世界中が同じである。
 だが、どうであれ超大国の大統領がそれで決まり、否応もなくその影響を受けるのだから、トランプ・バイデンいずれが当選しても対応できる準備をいまからしておこうというのはしごく当然のことだ。

 しかも、今回はどちらが当選しても米国の対中国姿勢に大きな変化はない。何よりも上下両院がこぞって中国に強硬だ。なので韓国が心配すべきは「反中戦線参加の圧力」をどう受けるか、かわすかが最大の焦点となる。おそらく朴完奎論説室長の真意もそこにあるのだろう。

 だから共和・民主の双方に対応できる対策準備をとは言うものの、これまでも繰り返されてきた韓国は米中の「どっちに付くのか」を迫られるのは誰が大統領になろうが、変わらないということになる。

 ところが最近、李秀赫(イスヒョク)駐米韓国大使が「(どちらにつくかを)自ら選択できる国だ」と発言して波紋を呼んでいる。国政監察での発言で、米軍駐留経費負担増額に対する牽制(けんせい)もあってか、隠すそぶりもなく文在寅政権の本音を吐露してしまった。今後、文政権が本気で中国にシフトしていく可能性があるとするなら、東アジア全体の安保情勢が変わってくる。交渉次元で言うべきことではない、周辺に誤解を与えるレベルの発言だ。

 それとも、韓国はそれで米国を揺さぶれるほどの国力を備えたとでもいうのだろうか。脅しよりも協調と協力の幅こそが国挌を決めるというのが国際政治の現実だ。もちろん、それらは「力」に裏付けられてはいるが。

(岩崎 哲)